再闘
智歌と亜久未。
「ねぇ、亜久未…。アタシ、こんな無意味な争いは…したくない…」
覇魔歌を歌唱しようともせず、ただ立って説得しようとする智歌。だが、
「ぜんっぜん無意味じゃないよ! ボクは、智歌が帝国側に居る時点で…嫌いだ…」
亜久未は、王国側として全力で活動していた。なぜなら、復興支援した国であり、帝国に無惨に壊された国であるから。
「だから、それが違うんだって!」
両手を上げて戦闘態勢にならない智歌。亜久未は戸惑っているが、怒りは露わになるばかり。
「…帝国は、王国を無惨に壊したんだよ…!? そんな国に荷担してる智歌と、闘わないとでも思う!?」
雷を身にまとい、無抵抗な智歌に攻撃を仕掛けた。
防御することもなく、直接的に身体にダメージを受ける。
「荷担してるワケじゃない…。私は、ニヒツやニェンテ、そしてシヴォに会って…帝国側の言い分を聞いただけだったんだよ…。王国側の言い分を聞いたことは無いから、聞かせて…?」
亜久未に必死に語りかける智歌。
しかし、この訴えかけも通じず、怒りに身を任せた亜久未は、遠慮なく攻撃し続けた。
「話し合う気は無いよ。抵抗しないなら、そのまま死んでくれる?」
あまりにも無防備だったために、智歌は大ダメージを負い、動けなくなっていた。
「…これだけ、無防備で…戦う気が無いっていうのに…、今日の亜久未は…通じないのかな…」
あまりにも怒り任せな亜久未に、分かって欲しいあまりに本気を出し始める智歌。
脳内詠唱に切り替え、最速の歌唱で歌い続けながら戦闘態勢に。
「…昔から、キレると人の話を全く聞かずに、超頑固になるよね…亜久未は」
雷に対抗すべく、炎を身にまとい始め、全力で亜久未に対抗する。
対する亜久未も、自然界の雷雲からチカラを借り、全力の雷撃で対抗。
ぶつかり合う2人。しかし、智歌は形勢逆転した。
電気は炎に弱い。この自然の節理は、どうやら魔法や超能力にもあるようで。炎をまとい始めた智歌は、雷の亜久未を圧倒した。
「…ぅぐ…っ! さすがに、自然には勝てない…か。ボクの雷も……」
智歌の最後の一撃に吹き飛ばされ、亜久未は地に倒れた。
しかし智歌は、優しく手を差し伸べる。
「聞きたいのよ…王国の話も、帝国の話も。どちらも勘違いしてしまったから、王女と女帝は殺し合いするハメになったんじゃないか、って…アタシは思ってるわ…」
「…ふん。帝国側の人の話なんか…」
バチィィン!
…『聞く価値も無い』と言おうとした亜久未に、智歌は、思い切ってビンタした。
「頑固にならないで聞いて!!?」
とてつもない大声が出て、亜久未も智歌の本気さを感じ取ったのか、素直に聞き始める。
「…うん…わかった、聞くよ…」
智歌の眼を見つめ、真剣な眼差しで耳を澄ませる。
「アタシが聞いた限りでは、シヴォ…いや、シュロナは、帝王様のもとに嫁いだことで、王国側に“裏切り者”として扱われた…。その恨みを晴らすために、王国を壊した…。そう言ってたわ」
ここまで言い、今度は質問する。
「…亜久未は、王女バルミッフェから、何か聞いてるの? 帝国への恨み、とか…」
「…もちろん聞いてるよ」
今度は、亜久未が語り始める。
「バルミは、王国を壊したのが帝国だから、それが許せない…って言ってるの。なんでも、破壊した理由は“平和だからつまらない”なんていう理不尽な理由…。そんな理由で壊しに来た帝国を許せない…そう言ってた。ボクだって、許せないよ…こんなの」
怒りに震えるが、抑える亜久未。
智歌は、またも話し始める。
「アタシは、お互いが持つ恨みは正当だと思う。けど、2人とも怒りの矛先が違う。そもそもの話、恋愛に国境なんて存在しないし、好きなら好きで、帝王に溺愛すればいいだけの話だし、王国もそれを割り切って認めれば良かったのよ…! 今回は、国王と帝王にも問題あるし、それを勘違いしてしまったシュロナとバルミにも問題あると思う…
結局は、お互いの勘違いから始まった“すれ違い”が問題だと思うのよね…」
亜久未は反論する。
「…確かにバルミは、姉が嫁いでからというもの王女に君臨して、帝国側の敵になっちゃったよ。けど、嫁いだ姉も姉…敵と知りながら結婚することも問題だよ! 個人的に好きになるのは否定しないけど、そのくらい覚悟して結婚しないと、こうなる…ってことくらい予想できるよね…」
そもそも嫁ぐなら裏切り者扱いされることも覚悟してしないと…という意見だ。
「けどね? 起きちゃったモノは挽回できないよね…。だったら、分かるまでぶつかり合う。そうして分かるハズだよ、みんな…。それが今」
そう言い智歌は、少しバルミとシュロナの様子も見ながら戦闘していた。
少しずつ戸惑いが隠せなくなる亜久未に、智歌は、論破を試みた。
「今だって、亜久未の全力を受けて分かったもの。本気だって…。だからアタシも本気で応えた。この話も、さっきの全力も、本気じゃなきゃやらないよ…。今まで、こんなに本気で闘ったことあるかな、ってくらい本気だった…」
亜久未は、全てをぶつけてくれたことを必死に語りかける智歌に屈し、手を差し出す。
「…伝わってきたよ、智歌の気持ち。…本当に、これは“無意味な争い”だった…」
亜久未は、智歌と縁を取り戻した。
一方で、ニヒツと円は………




