帝国
「…智歌。そろそろだね」
「ええ」
2人は、とある場所に来ていた。
それは、神源と呼ばれる場所だった。
「…いいわねぇ、こうして遠出するの♪」
とても楽しそうにしている智歌。
実は智歌は、こうして遠出をしたことのない箱入り娘だったのだ。その理由は、最強になってしまったことで自由が無くなってしまったから。
「智歌って、こういう感じで遠出したことないの?」
意外な告白に驚き、泉美は聞いた。
「ないわよ。だってアタシに自由なんて無かったから…。でも、さっき亜久未に負けたことで最強の座は失ったから、これからは自由ね♪」
そんなこと言いつつ、実は既に自由な智歌。それを隠し、これから自由だと言った。
「…なるほど、ね。“最強”は、一度でも負ければその座を降ろされ、最強と謳えなくなる…そういう使命だもんね…」
泉美は納得していた。
「…それにしても、この不穏な空気は…何?」
不意に泉美は、こう呟いた。
他国の民だからなのか、やたら警戒される2人。
その割には、特に関門とかは無く、誰でも入国できるようだが。
「…異国の者だな?」
こう突然問われる2人。答えたのは泉美。
「えぇ。私は“表世界”で能力を身につけて、裏世界“魔源域”に飛んできた者よ?」
「…そっちの女は?」
智歌に質問を投げかける。
「アタシは“絶世森海”出身の女よ」
「何故この“帝国”へ来た?」
間髪入れずに質問をしてくる男。迷わず泉美は答える。
「この国の方角に不穏な空気を感じて、正体を知りたかったから来たのよね…」
「そうか…」
その瞬間、戦闘態勢を解く男。そして、名を明かした。
「オレは“ニヒツ”だ、よろしくな? …まぁ、ゆっくり見ていってくれ。この帝国は、とても発展してる国だからな」
帝国の幹部である“ニヒツ”だった。
ーーーーー……集合場所には、シヴォとニェンテがいた。
「…ニヒツと会った彼女たち、どうやら侵略しに来たワケじゃなさそうね。戦闘態勢は解こう…」
そう言ったのは、シヴォだった。
「そうだね、シヴォ」
同意したニェンテ。
「…そういえば、レーシァは元気してるのかしらね? 昨日…だったかしらね。いきなり音信不通になったんだけど…」
誰かのことを心配するシヴォ。
「…レーシァが居ないことには、心配で眠れないよ…」
と、ニェンテ。
こう心配していたときに、レーシァからシヴォへメールが届いていた。が、その文章は明らかに違う人物が書き記していて、レーシァの行方を示してあった。
『初めまして、シヴォさんとニェンテさん、そしてニヒツくん♪
レーシァは今、私が預かってま~す♡
でもでも~、ケンカ仕掛けてきたのはレーシァくんが先。だから……倒してあげた(笑)
最強の女 夢芽より♪』
“夢芽”という女からのメッセージだった。
つまりそれは、その女がシヴォやニェンテ、そしてニヒツに向かって挑発してきたのだ。
「…この女って、まさか……」
シヴォには心当たりがあった。この“夢芽”という名前に。
「…シヴォ、もしかして知ってるの? “夢芽”っていう女のこと…」
質問を投げかけるニェンテ。シヴォは、それに答えた。
「知ってるわ…。この“夢芽”は…ーーーーーー…なのよ」
「っ!!?」
その告白に驚きを隠せず、そして
「何で…そんな人の所にレーシァが…?」
と、訪れたレーシァにも驚きを隠せなかったようだ。
ーーーーー……神源、泉美と智歌が来ている場所。
「…ニヒツ。私は“高良 泉美”。よろしくね?」
丁寧に自己紹介する。
「私は…」
智歌が自己紹介しようとした時、ニヒツは知っていたことを口にする。
「歌聖神の“羽多浜 智歌”だろ? オレは知ってる。2人ともよろしくな」
なんだか複雑な気分になる智歌だった…。
ーーーーー……某世界、某所。
「…イズミン、神源では何も無いかも知れないから大丈夫そうだけど…問題は、その帝国の“敵対国”を復興支援してる、あの2人よね~…それに、その国の“王女”も復活してるし、波乱の展開になりそうだね~…」
と、まずは泉美の心配をし、それから、
「…まぁ、その事件よりも先に、シヴォ達が動くと思うけどね~…レーシァが私の隣で封印されてるし、取り返しに来るかな~…うん、確実に来るね~♪」
と、レーシァを取り戻しにシヴォ達が来ると予感めいた予想をしていた。
…この女が、夢芽である。
つまり、封印されている帝王が“レーシァ”なのだ。
ーーーーー………
ーーー……夢芽の予想通りに、2つの事件が同時に始まろうとしていた。




