もう一人の破壊神(ダークマター)
裏世界、某所。
綾巻と彩夏は、誰なのか突き止めるべく飛んできた。
そこには、確かに肉眼で確認できる破壊神が立っていた。
しかし、決定的な違いに気付く2人。
「あの破壊神……胸が膨らんでる。明らかに女だ…」
綾巻は確信した。鉄雄以外にも破壊神が居るということを。
それと同時に彩夏は、心当たりがある女性を思い浮かべる。
だが、明らかに全部が違うようだ。
「校内には存在しない人物だね、恐らく。誰だ…?」
そうこう考えてる時に、破壊神は2人めがけて飛んできた。
「傍観者は殺すわよ!?」
そう言って破壊神の女は、能力を振りかざす。
両手に気を込め、2人の周囲をオーラで囲み、そして大きな威圧力で2人を挟み撃ちにしようとした。
「右は私がやるわ。彩夏は左を!」
「はぁい、よっ!!」
綾巻は、まず左手で威圧を抑え、右手に気を込めてから、右手を勢いよく前に振り出し、威圧力同士で相殺させた。
彩夏は、最初から両手で対抗し、押し切った。全力の半分くらいのチカラで。
「くっ…! やるわね…」
破壊神は悔しがり、さらに攻撃を仕掛けてくる。
「これなら、どうかな!?」
とんでもなく太い集束砲を2人めがけて発射した。
「これは凄まじい…! 2人がかりで抑えるよ!!」
綾巻は彩夏にそう言ったが、彩夏は違った。
「シノン、私に任せて」
使っていなかった左手を使い、いとも簡単に相殺する。
…彩夏の左手は、何か特殊な真極能力のようだ。
「なっ…!? 貴様は…“全逆応”のサヤカか!?」
能力回路の逆流を感じ取った破壊神は、どうやら彩夏を知っている人物のようだ。
「ああ、そうだけど? …って、その声……」
どうやら彩夏にも心当たりがある声のようだ。
「まさか、バーミーか!?」
バルミッフェ・ニダ・エフティルシパ 18歳
(※以下、バルミ)
裏世界内の“エフティルシパ”という国で育った国王の娘だった。
「よく覚えていたな…貴様」
仮面を取り外し、素顔をさらけ出すバルミ。
空色の瞳に、ポニーテールは金と銀でメッシュの掛かった色合い、前髪は1日1日交互に左右を入れ替えて、上げずに垂らしている。今日は右が長め。
「今でもアタシは貴様が嫌いだ。こんな錆びた世界を好きでいられる貴様が!」
怒り口調で彩夏に怒鳴り散らすバルミ。すると彩夏は、
「私は、今の裏世界を錆びた世界だなんて思ってない…。ただ壊されてるだけだし…それに裏世界は、超能力の宝庫だから…」
何か意味ありげに怒りながら、そんなことを言う。
それに続いて、綾巻は、
「壊していい世界なんて無い。だから破壊させない…」
と、バルミを説得しにいく。
だが……
「そう言ってヤツらはエフティルシパを騙して壊した…! だから今度はアタシが壊してやる!! そんな虚偽で破壊をしたがる裏世界を!!」
そう言ってバルミは、彩夏と綾巻に襲いかかる。
-----…そんな戦闘の最中、泉美は。
「ふぅ…。今日も良い湯加減…♪」
お風呂でマッタリとしていた。
泉美は、かなりの綺麗好きで、一度身体を洗って、風呂に入って、もう一度身体を洗い、それから出るようだ。
しかし不思議なことに、潔癖症では無いのだ。
そんな泉美は身体を洗い終わり、風呂から出る。
「気持ちよかった…」
そうして風呂から出た時だった。
直感的に何か禍々しいモノを感じ取った泉美は、すぐさま着替え、裏世界に飛び移る。
そこには鉄雄も居るだろう、と思っていた泉美。だが、そこに彼は居なかった。
代わりに居たのは、綾巻と彩夏、そしてバルミ。
「えっ…? 生徒会長に、副会長…?」
ここに来て初めて、2人が超能力者だということを知った。
「…? 貴女は…?」
2人は泉美を知らなかったようだったので、自己紹介をする。
「私は高良 泉美。鉄雄と同じクラスの2年生です。今後よろしくお願いします!」
深くお辞儀し、そして本題に移る。
「突然なんですけど、私は裏世界から禍々しい何かを感じて飛んできました…。何かありました?」
その質問に答えたのは、綾巻生徒会長。
「破壊神は知ってる?」
「はい…」
「実は、破壊神の破壊活動を止めに来たのよ。そしたら彩夏の知ってる人物で…何が何やら、私は混乱してる所よ…」
綾巻は破壊神として活動していたバルミを指差し、そう言った。
ところが彩夏は、予想だにしない質問をしてきた。
「今まっ先に鉄雄って呼んだってことは…高良さんは霧龍くんの友達?」
という、本当なら聞く必要もない質問だったが、それに泉美は答える。
「はい、そうですが…」
そう答えた直後だった。
彩夏の攻撃の矛先は、突如として泉美に向けられる。
「あぐっ!?」
いきなりの攻撃に動揺した泉美だったが、瞬時に、攻撃される気配を感じ取り、そして防御していた。
「い、いきなり何するんですか!?」
突然の変化に驚きを隠せない泉美。すると彩夏は、
「霧龍くんの友達なら、あなたも破壊神の1人だよね?」
と、鉄雄が破壊神だから繋がりがあると見なしてしまっていた。
しかし、それが初耳の泉美は、
「…えっ!? 鉄雄が……破壊神…!?」
と驚いて腰を抜かしてしまった。
その様子を見た彩夏。しかし一方で、倒れそうになった泉美を支えた綾巻。
「知らないフリしても無駄よ。彼の友達とあらば……」
そこまで言って攻撃を仕掛けようとしたとき、綾巻が泉美に助け船を出す。
「彩夏、待って! …泉美さん、霧龍くんが破壊神だってことは今初めて知ったみたい…」
そう。綾巻は読心術も兼ね備えていたのだ。
「…っ!? なん…だって……!?」
その一言で彩夏は手を止める。
「私の読心術は心の奥底の真実をあぶり出す…。それは彩夏が一番知ってるでしょ?」
「知ってる…。……疑ってごめん、高良さん」
拳を下げ、泉美に手を差し出す。それを優しく握り、泉美は立ち上がった。
「鉄雄が……破壊神……」
その単語を何回も繰り返し呟きながら、泉美は少しずつ我を忘れていく。そして……-----




