名乗れぬ相手
王国の機関に「家名管理局」という部署がある。
これは「法務局」と共に王国宰相である大公の管理下に置かれる。
今更ながら王国貴族家の数は多い。
大公家一家、公爵家四家、侯爵家八家あたりはまあ覚えやすい。
正伯爵家三十六家、副伯爵家百四十四家も何とかなるであろう。
が、男爵家四百三十二家、宮中伯家六十家あたりから怪しくなる。
宮中伯は一代のみの為、割と頻繁に入れ替わる。
準貴族となる準男爵家や一代騎士家は増減が非常に激しい。
半年毎に昇爵や抹消が生じる為に覚えている者もわずかしかいない。
特に一代騎士は、騎士に加えて文官や名誉称号でも与えられる。
上級貴族は宗家それだけを覚えるのなら、まあ楽だろう。
しかし実際には従属爵位というものがある。大抵結構な数がある。
そして上級貴族には一夫多妻、またはその逆の一族が多い。
一つの一族が二十にも三十にも繋がりがあるのである。
また、王国以外に兄弟国の大公国貴族に関しても記録されている。
今挙げたそれぞれに、家族構成、年齢、性別、続柄、紋章がある。
それらを整理し各家に婚姻の助言を行うのが家名管理局である。
専門部署が必要になるのも無理はない。
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そんな面倒なもの、適当でも良いではないかとも言われるが。
かつて碌に管理していなかった時代にこんな事があったのだ。
ある貴族の青年と別の家の淑女が政略結婚で結ばれた。
が、元をたどれば青年と淑女は血縁のある兄と妹であった。
親世代が色恋に奔放で、あちこちで子供を作った挙句養子に出した。
それが父方でも母方でも、である。当人同士は全く知らない。
苗字も異なり爵位も異なるので、最初は誰もが気づかなかった。
しかし夫妻それぞれが養父養母へ偶然確認したところ、
血の繋がりがあると判明してしまったのである。
この時既に二人は子供まで産まれていた。
まさか子供を殺める訳にもいかず、また好き放題やらかした親共は、
既に他界していたのだ。実にみっともない事に性病で。
公にはならなかった、いや出来なかったこの事件は当然問題となる。
以後王国では貴族の戸籍管理とその流れを徹底する事が求められた。
近すぎる血縁で子孫を残し続けるのは問題があり過ぎる。
ちなみにこの家庭がどうなったのかは表の記録より抹消されている。
家の取り潰しは行われたりはしていない。二人は被害者なのだから。
子はおそらく夫妻に無関係な家へ養子に出されたと推測されている。
◆
だが家名管理局で管理しきれない場合もある。
貴族、準貴族から平民となった者達の婚姻である。
平民同士の婚姻に、わざわざ指摘する義務など本来ないのだが、
それが自分の身で起こる場合はそうも言っていられまい。
家名管理局の下級文官ブリーサが縁談を勧められ、
紹介された娘マリーナをふと調査して仰天した。彼女は妹だ。
過去一代騎士の両親を失い、苦学生として王立中央学院を卒業。
妹がいたが、その子とは養子となる時バラバラに引き取られた。
赤子だったので妹の顔もおぼろげだし面影も感じられないが、
引き取られた先を辿れば間違いないだろう。
困った事に家名管理局は敏感な部署であり、守秘義務が生じる。
君は実は私の妹なんだ、とは伝えることが出来ないのだ。
向こうは向こうで、かけらも兄とは思ってもいないらしい。
縁談を進めてきたのは現在の養父母である。悪意など全くない。
偶然知り合った家具屋の娘さんが嫁入り先を探している、と。
その家具屋は既に息子夫婦が後を継ぐ事が決まっており、
家を出たいとの事だった。
ブリーサは悩みに悩む。どうすればいいのか。
嫌われるような事もしたくはない。養父母の顔を潰してしまう。
話しても問題がなさそうな相手として、上司に相談してみた。
「養父母とお相手の家にも守秘義務を守ってもらう事前提で、
打ち明けるしかないのではないか?」
と言われ、ブリーサは覚悟を決める。
次の休日。
ブリーサと養父母は相手の家具屋を訪れる。
重大な話がある、と相手側には伝えており、相手一家も待っていた。
ブリーサはそこで息子夫婦の妻の顔をはじめて見る。
彼女は亡くなった実の母によく似ていた。
◆
家具屋一家が女の子を引き取った時、既に一家には男の子がいた。
引き取られ成長した後に女の子は男の子と惹かれ合い、結婚する。
その年に家具屋一家に生まれた子供がマリーナである。
自分の妹はつまり、結婚すれば義理の姉となるのだ。
彼らへ打ち明けて縁談を断ろう、と覚悟していたブリーサは、
言葉を告げようとして、生き別れた妹との再会に涙した。
三段階変身しそうな下級文官ですが、彼の頭文字はFでなくBですので。
欧州にて養子同士結婚したら実は…という元ネタがありまして、
さすがにフィクションでも抵抗があったので、こんな形に。




