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帰路にて

周辺は影の色と同化するかの様に次第と暗さが広がっていく。


橙色の夕日がレンガ造りの街を照らしている。


店じまいをする人や遊んでいた子供たちは母親のそばへ行き「バイバーイ!」と友達に対して手を振りながら帰宅をしている。


“下原明月”はボロボロになった体と崖を下っていた時に付いた葉っぱ、木の枝、埃、土汚れを体についた状態で歩いている。


体のあちこちをぶつけたこと、クエストの連続失敗、偶然見つけた本が値打ちのするものではないだろうという落胆。


さらに崖を下るのに集中していたため、精神的にも肉体的にも大きいバックを背負っているわけでもないのに体がどっしりと重く感じ気分も落ち込んでいる。


しばらく歩くとギルド“アルスフィードギルド本店”に着いた。


ギルドとは国家が対処しなければならない事案を国に住む人たちにクエストという形で手伝ってもらうように促す機関でもある。


また、町の住人からの依頼や、周辺地域に住む人からの依頼も請け負っている。


主にモンスターの討伐や薬草の採取、地域の防衛、

用人の護衛など国兵だけでは対処が行き届かない事案を冒険者がクエストという形で受けるのだ。


ちなみに今回彼が受けたクエストは薬草の採取というランクS〈standard〉に分類され比較的簡単な方であるはずなのであるが、いつもうまくいかずクエスト達成より失敗のほうが多い。


クエストのランクはE〈Easy〉、S〈Standard〉、H〈Hard〉、D〈Danger〉、U〈Unknown〉5ランク存在している。


そしてランクEは主に町の雑草取り、町のお掃除が依頼内容である。

このランクは子供でも受けることができるクエストである。


ランクSは町の外へ出て薬草の採取、小型モンスターの討伐、捕獲が主である。


このランクから冒険者の資格が必要になってきて、〈Bronze Medal〉、〈Silver Medal〉、〈Gold Medal〉、が必要になってくる。


二カ月に一回資格取得・昇格試験が開催され、目的遂行能力、状況把握、戦闘能力、生存能力を審査され資格を取れるか判断される。


彼はまだ〈Bronze Medal〉なのでランクSまでのクエスト受けることができる。


ギルドの扉を開くといくつかあるテーブルの中央に存在するランプの淡い灯りは、周囲を優しく照らしている。


明月が扉を閉めると小さな風が起こり、灯火は揺れるのと同時に周囲にあるテーブル、椅子、柱、働いている受付の人たち、冒険者たちの影がゆらりと揺れた。


「あら?明月君」


澄んだ声音の女性がコツンコツンと靴の音を響かせ奥の部屋から、明月の側へ近づいてくる。


“ アネット・ローズ・ウィルソン”


ギルドの受付嬢の一人である。


アネットは明月がこの国に来たばかりのころにクエストの相談や、生活面でのアドバイスを教えてくれる恩人である。


「こんばんは、アネットさん」

「こんばんは…ってどうしたの?あちこちボロボロで、今日受けたクエストは薬草の採取だったよね?」

「実は採る寸前でダークボアに見つかってしまって…」

「あの薬草はダークボアの好物だから周りに注意してねって言ったよね?」

「ご…ごめんなさい…あっ!でも途中でこんな本を手に入れたんですよ」


ギルドではモンスターの牙や骨、探索中に見つけたお宝などの買取をしてもらうことができる。


アネットは本を見廻していく。


「…残念だけど売り物にもならないかな……昔の文章とか書かれていれば上司に掛け合うできるんだけどね…ごめんね」

「ですよね」

「取り敢えずクエストは未達成で処理するから今日は休んで明日には達成できるように頑張ろう!」

「…はい」


ギルドから出ると辺りは黄昏ておりほとんどの家の中が明りを放っていて街には明月だけが一人ポツンと立ち尽くしていた。


クエストを失敗し続け自分の貯金が後数日で底を尽きてしまう、今後どうなってしまうのかと考えてしまい不安に駆られているのだ。


下を見ながら足を動かし彼は考える。


(なんで自分はこんなに何もできないんだろう…魔術も碌に使えない。はぁ日ノ本からアルスフィードに来たけど中級以上の魔術を使えるようにはなかなかならないし)


ここアルスフィード大陸は魔術研究の最先端であり剣技、槍技、防御、拘束、治療魔術といった五種類だけでなく、魔力砲、浄化魔術のように新しい魔術を生み出し他の国には引けを取らない発展をしている。


明月は何故か初級魔術以外が使えないそのため、魔術研究の盛んなアルスフィードに来たのだ。


ちなみに、彼の生まれた国は日ノ本という場所である。


日ノ本とアルスフィードは100年以上前に戦争をしていた関係となっている。


しかし、時間がたつに経つにつれて双方の国力が下がる一方だった為、一度停戦をして次第に同盟を組む形をとって、現在はお互い良好な関係となっている。



いつの間にか自分が泊っている宿泊施設へとたどり着いた。


ここ“オクアシー”は他の国から来た冒険者たちが住んでいる。


住む場所が無く、ホテルと言った高級な宿泊施設が多いため夜の街で道の端で野宿をして追い剥ぎをされたとなっては他の国との信頼が崩れてしまう可能性がある為、街の治安を守るためにも国が“オクアシー”と言う宿泊施設を設置している。


浴室は男女別々共同で台所も共同である、部屋は各自一部屋存在していて畳八畳の広さで明月からしてみると十分に過ごすことができる。


部屋に荷物を置き浴室へ向かった。


シャワーを使い顔に付いた泥を洗い流し体のあちこちにできている擦り傷に水が沁みる、傷に当たる度に体が一瞬硬直するのが続きがら体を洗った。


部屋に戻りランプの明かりを灯す。


それほど明るくないが、机、椅子で作業ができる程度には光がある。


深呼吸をする、溜まっていた不安、疲れが少し吐き出され安堵を引き出してくれる。


寝巻に着替えて椅子でくつろいでいると今日

手に入れたあの本を思い出し鞄から取り出した。


始めに手に入れた時はササッと頁をめっくただけでじっくりと中を見ていない、でももしかしたら宝の印とかがあるかもしれないそんな期待を膨らませた彼は本を開く。


だがいくらめくってもめくっても真っ白の頁が続くだけで何も書かれていない。


「はぁ…」


何回目の溜め息か、すでに何も書かれていないと判断されている為か、惰性で頁をめくっていたが、次の頁をめくった時、紙で親指を切ってしまった。


「いてっ…」


少量の血が紙についてしまった。これでは雑貨店に売りに出したりできなくなってしまう。


宝石や、モンスターから得られたアイテムに血や泥がついていれば買取価格も下がってしまうし、欲しいとも思われない。


ましてや本についてしまった場合では最早頁を千切る以外の方法が思いつかない。


だが、血がついた所から徐々に文字が現れたのだ。


「なんだ…これ…」


【ここに契約を行う 力が欲しい者 与えよう 血を次の頁に印せ】


突如出現した文章に明月は額に汗をかき本の頁は触れている手汗により滲んでいる。明月は文章に書かれている“力が欲しい者 与えよう”に目が行ってしまっていた。


(力をくれるんだよな…でも何が起こるか分からないもしかしたら死んでしまうこともあるんだよな…)


いきなり文章が現れれば動揺をするし恐怖を感じるのも無理はないだろう、ましてや血を印せなどと書かれていれば不審しか感じない。


(でも、契約をして命が落ちずに力が貰えるなら今後クエストが失敗することも減るだろうし今よりかは生活もしやすくなるかもしれない…なら)


クエストが失敗続きだった明月にとって文章の誘惑には勝てなかった、自分の親指を噛み次の頁に溢れる血を押した。


すると、新たな文字が羅列されていきそれを読もうとした瞬間、次第に眠気が襲い机に顔を伏せる形で眠りについた。

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