序章
深い森の中を走る少年が一人
「はぁっ…はぁっ…」
後ろから追いかけてくるモンスター“ダークボア”から必死に逃げている少年“下原明月”は愚痴をこぼす。
「ああっもぉ!あと少しで採れたのに!これじゃまたクエスト失敗だよぉ!」
彼はモンスター"ダークボア"が好んで食べている薬草を採取するクエストを受諾したのだが、タイミング悪くダークボアと出くわしてしまった。
身体強化の魔術を行使しているおかげでダークボアからそこそこの距離を離して逃走することができている。
「うお!」
逃げることに集中していた為、腕で顔を防ぐこともできずに木の根っこに足を引っかけて苔が生えている地面に向かって思いっきり転倒した。
「いっったぁ…」
と口にするが現状を直ぐに思い出し、態勢を立て直し走り出す。
しかし転倒した事によってダークボアとの距離が詰められてしまいダークボアの鋭く大きな牙が後ろを振り返らずとも感じとれるぐらい徐々に背中へと迫ってくる。
(もぉだめだぁ!!!)
息は切れ心の中で叫び声をあげた瞬間突如足元が崩れ下へと落下する。
明月は、一瞬状況に困惑したが腰に差している二本ある短剣の内一本を逆手に握り地面の断面部分へと思いっきり両手を使い刺し込む。
握りをしっかり掴み、足はつま先を断面に当てながら落下への衝撃に備える。手のひらは短剣を断面に刺し込んだため、短剣と断面の擦れによる衝撃によって手がずっとジンジンと響くように痛みが襲ってくる。
足の裏はズキズキと痛みが響いており、つま先と足の裏が裂けてしまうのではと考えてしまう。しかし、そんなことを考えるのも束の間、手の痛みに耐えるのに限界が達し遂に手を放してしまう。
「しまっ!!!」
手も足も断面から離れてしまい背中から落下する。が、がむしゃらに体を丸め落下の向きを背から右肩へと傾ける。
しかし、地面の断面にぶつかりそのまま体のあちこちをぶつけながらゴロゴロと穴の中へ落ちていく。穴はグニャグニャと不規則に曲がっており大きい穴から落ちていたはずなのに次第に穴は狭くなっていた。
「ぶへ!」
スピードが付いたまま思いっきり穴から出てきた明月は勢いよく壁にぶつかった。
あちこちをぶつけながら転がってきた体は痛みと疲労によって重く感じられる、重い体を上げ周辺を見渡す、出てきた穴から少し先の右隣は崖になっているため大きく開いた穴から太陽の光が刺し込んでいる、壁はレンガ造りになっており木で作られた椅子がボロボロに朽ちている。
そして、部屋の左側には小さな段差の階段がありその上には一冊の本が置いてあった。本には埃がかぶっていた割に中は汚れもなく何も書かれていなかった、いくら頁をめくっても何も書かれておらず、本の表紙は漆黒に染まっているが中は真っ白である。
「はぁ…」
空は淡い橙色となっている。
お昼ごろ来た時は、太陽の光に照らされ鮮やかな緑を放っていた森が、今や背筋をゾワゾワさせる静けさを与える。
(今から薬草をとりに戻っても、モンスターを発見するのも、戦闘するのも暗くなりすぎたら危険なだけだし明日またこよう。
クエストは続行できないから、この本何か高値で売れるものかと期待したけど何にも書かれていないただの本じゃなぁ~…一様持って帰ってギルドで売れるか聞いてみるか。)
大きくため息を吐いた明月は向き直り崖へと進む、崖の下を見下ろして一言。
「帰るか」




