エピローグ「変わらないもの、変わっていくもの」
それから数年の歳月が流れた。
天耀学舎は、蒼龍と飛燕が中心となって推し進めた改革により、見違えるような変貌を遂げていた。
身分や性別による理不尽な差別は過去のものとなり、実力と志を持つ若者たちが、互いに切磋琢磨する活気あふれる学び舎へと生まれ変わったのだ。
その実績が評価され、蒼龍は若くして帝国の中枢である評議会に名を連ねるまでに出世していた。
しかし、彼がどれだけ多忙になろうとも、絶対に変わらないものが一つだけあった。
***
「飛燕。今日の夕食の献立だが、お前の好きな辛味の効いた肉料理を料理長に用意させた」
帝都の一等地にある、蒼龍の豪奢な私邸。
その広大な中庭で、木刀を振って汗を流していた飛燕の元へ、評議会の重々しい制服をまとった蒼龍が足早に近づいてきた。
彼の背後には、いつものように数人の側近が控えているが、蒼龍の視線は飛燕ただ一人に注がれている。
「会長……いや、蒼龍。仕事中だろ。なんでわざわざ戻ってきてんだよ」
飛燕が木刀を下ろし、呆れたようにため息をつきながら額の汗を手の甲で拭うと、蒼龍は眉根を寄せ、手にした絹のハンカチで飛燕の顔を丁寧に拭き始めた。
「お前の顔が見たくなったからだ。それに、汗をかいたまま放置して風邪でも引いたらどうする」
「だから、俺はそんなヤワじゃねえって何百回言えば……」
「何度言われても、俺がお前を心配する気持ちは変わらない」
相変わらずの過保護っぷりに、飛燕は口を尖らせながらも、拭われるがままに大人しくしている。
側近たちはその光景にすっかり慣れきった様子で、見ざる言わざるを決め込んでいた。
「あのさ、蒼龍」
飛燕は少しだけ真面目な顔つきになり、蒼龍の冷たくも優しい瞳を真っすぐに見つめ返した。
「学園は変わった。帝国も、少しずつだけど変わり始めてる」
「ああ。お前が俺のそばで支えてくれたおかげだ」
「俺は何もしてねえよ。ただ、あんたが間違った方向に進まないように、見張ってただけだ」
飛燕が照れ隠しにそっぽを向くと、蒼龍は愛おしそうに微笑み、飛燕の少しだけ硬くなった右手を両手で包み込んだ。
前世で喧嘩に明け暮れ、今世でも理不尽に立ち向かうために振るってきたこの拳は、今では蒼龍の温もりを知り、誰かを守るための確かな力となっていた。
「これからも、俺を見張っていてくれ。お前がいなければ、俺はすぐに道を誤ってしまうからな」
「……言われなくても、一生ついてってやるよ。覚悟しとけ」
飛燕のぶっきらぼうな、しかし心からの誓いに、蒼龍は満足そうに目を細め、その唇をそっと飛燕の額に落とした。
澄み渡る青空の下、二人の影はこれからも長く、どこまでも寄り添いながら続いていく。
真っ当な生き方を見つけた元不良のオメガと、彼を溺愛してやまない絶対君主の物語は、この先も騒がしく、そして果てしなく甘く紡がれていくのだった。




