番外編「過保護な暴君と休日の密室」
天耀学舎の敷地内に建てられた、生徒会役員専用の特別寮。
その最上階にある、広大な間取りと豪華な調度品で埋め尽くされた部屋の主寝室で、飛燕はふかふかの巨大な天蓋付きベッドに沈み込んでいた。
厚手の遮光カーテンが引かれた室内は、真昼だというのに薄暗く、空調が完璧に効いた快適な温度に保たれている。
「……んっ……」
飛燕が寝返りを打とうとした瞬間、腰に巻きついている太く力強い腕の存在に気がつき、小さくうめき声を漏らした。
背中には、熱を帯びた広い胸板がぴったりと張り付いており、首筋には一定のリズムで温かい吐息が吹きかかっている。
冬の夜気のような、重厚で安心するアルファの香りが、部屋中に濃密に充満していた。
「会長……起きてるんだろ。離してくれよ、トイレ行きたい」
飛燕が掠れた声で文句を言いながら腕を外そうとすると、その腕は逆にぎゅっと力を増し、飛燕の身体をさらに自分の方へと引き寄せた。
「だめだ。今日は休日だ。お前は一日中、ここから一歩も動かさず俺のそばに置いておく」
耳元で囁かれた低く艶のある声に、飛燕の背筋がびくっと大きく跳ねた。
「だからって、ずっとベッドの中はないだろ。飯も食ってないし……」
「食事なら、後で俺が口移しで食べさせてやろう」
「ふざけんな」
飛燕が顔を真っ赤にして暴れると、蒼龍は低く笑い声を上げながら、飛燕の首筋に顔を埋めた。
ちゅっ、という水音とともに、肌に吸いつかれるような熱い感触が走る。
「ひっ……」
「お前が可愛すぎるのがいけないのだ。あの夜会で、他のアルファどもがお前に色目を使っていたのを思い出すだけで、気が狂いそうになる」
蒼龍の言葉には、冗談ではない本気の独占欲がドロドロと渦巻いていた。
数日前に開かれた学園主催の夜会で、正式に蒼龍の番として紹介された飛燕は、嫌でも注目の的となっていたのだ。
オメガでありながら凛とした強さを放つ飛燕の姿に、魅了されるアルファが続出したのは事実だが、飛燕自身にはまったくその自覚がない。
「俺は誰にも色目なんて使ってねえよ。大体、あんたがずっと俺の腰に手を回して威嚇してたじゃねえか」
「当然だ。お前は俺のものだ。髪の毛一本すら、他の誰にも触れさせはしない」
蒼龍の大きな手が、飛燕の寝間着の隙間から滑り込み、滑らかな白い肌をなぞり始める。
指先が触れるたびに、オメガとしての本能が甘く疼き、飛燕の呼吸が不規則に乱れていく。
「あっ……ちょ、待っ……」
「待たない。お前の身体に、俺の匂いを骨の髄まで染み込ませてやる」
蒼龍の唇が飛燕のうなじを這い上がり、耳たぶを甘噛みする。
抗うことなど最初から不可能だと知っている。
飛燕は蒼龍の過保護で重すぎる愛情に完全に絡め取られ、ただ甘い吐息を漏らしながら、その熱に溶けていくことしかできなかった。
休日の密室は、学園の絶対君主による、甘く理不尽な独裁空間として、夕暮れまでその扉が開かれることはなかった。




