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聖剣、整備不良につき ~古代兵装の保守マニュアル~  作者: UshiKing


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第四話 黒陵自治区へ

【注意】追跡には地域差がある。

神殿の札が強い土地もあれば、別の取り決めが先に立つ土地もある。


応答が止められないなら、土地を選べ。

止めるより先に、息をする場所へ移れ。

門を越えてから、だいぶ歩いた。

背中の町明かりが畑の向こうに沈んで、代わりに風の音だけが増えていく。


ガイが、ようやく肩の力を落とした。


「……助かった」


ルカはうなずかない。否定もしない。

ただ、歩調だけは落とさなかった。


「今はな。朝が来る前に、もう一段離れる」


「離れるって、どこまでだよ」


「鍵を探す。息ができる場所で」


ガイが剣の包みをちらっと見る。文句が喉まで上がって、引っ込む。


「……水、ほとんど残ってねえ」


「わかってる」


ルカは短く言って、空の水袋を振った。乾いた音しかしない。

ガイが苦い顔をする。


「喉が、紙みたいに乾いてんだよ」


「口を閉じとけ。余計に乾く」


「それができりゃ苦労しねえっての」


ルカは少しだけ視線を返した。怒ってはいない。


「じゃあ、できる方をやる。雨を拾う。朝露でもいい」


「……拾えるのかよ」


「拾える。やり方はある」


言い切ると、ガイは黙った。

言い切られると、なぜか信じたくなる。そういう声だった。


二人は道を外れて、低い窪みに潜った。

火は使わない。煙は目印になる。音も残る。


ルカは膝をついて、剣の包みを直した。

ほどかない。ただ結び目を締め直す。擦れたところに布を当てて、ぶら下がりを短くする。


作業というほどのことじゃない。

けれど、手を止めると考えが暴れる。考えが暴れると、足が止まる。


だから、手を動かす。


そのとき、影が落ちた。


「……それ、隠せてないよ」


声は小さかった。弱いのに、届く声だ。


ルカは動かないまま、視線だけ上げる。

窪みの縁に、小柄な女が立っていた。外套の裾は泥で重い。髪は短い。目が疲れている。


ガイが反射で身を起こす。


「誰だ!」


女は両手を上げた。空っぽだと見せる仕草。近づかない距離。


「……ニナ」


ルカは一拍置いて言う。


「用件は」


ニナは喉を鳴らして、言葉を選ぶみたいに息を整えた。


「その剣のこと。……このままだと、居場所を絞られる。時間の問題」


ガイが噛みつく。


「門も越えたのに、誰にだよ」


ニナはガイを見ない。ルカを見る。


「遺物はだいたい返事をする。でも、これは“登録”が生きてる。

持ち主側の照会が通ると、居場所の返事まで返る」


ルカの目が細くなる。


「……距離があってもか」


「うん。すぐじゃないかもしれない。でも同じ場所にいるほど、絞られる」


ガイが眉を寄せた。


「そんなの、どうやって確かめんだよ」


ニナは一瞬だけ黙って、続ける。


「……言葉がある。『状態照会』って」


ルカは迷う顔をしない。迷う時間がない。

剣の包みに向けて、短く言った。


「状態照会」


布の奥から、無機質な声が返る。


「所有者登録:有効

登録名:UNKNOWN

照会受付:有効」


ガイが口を開けたまま固まる。


「……おいおいまじかよ」


ルカは、息を吐く代わりに肩を落とした。


「登録済み、か」


ニナが小さくうなずく。


「禁足札が立って、回収命令が回ってる。

あの流れなら、神殿が触った可能性が高い。帳面に載せたか、載せる準備をしたか」


「……それで、照会が来る」


「来る。すぐじゃないかもしれない。

でも、同じ場所にいるほど、絞られる」


ガイが歯を鳴らす。


「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


ニナは、少しだけ視線を逸らした。逃げ癖みたいな動き。

それから、言う。


「黒陵自治区に行く」


ルカの眉がわずかに上がる。


「……黒陵」


ガイが首を傾げる。


「どこだそれ」


ルカが先に答える。


「西のほう。商いの道が絡む場所だ。噂くらいは聞く」


ニナは、淡々と説明する。元気はないのに、言葉は途切れない。


「黒陵はね。神殿の札より――評議会の規約が強い」


ガイが顔をしかめる。


「評議会?」


「黒陵の“取り決め”を回してる連中。

門も道も、勝手に踏むと揉める。神殿でも遠慮が出る」


ルカがニナを見る。


「神殿が遠慮する相手ってのも、十分嫌だな」


ニナは笑わない。笑えない。


「嫌でも、息はできる。

照会が通りにくい仕組みもある。詳しい人もいる」


ルカは即答しない。

ただ、ニナの靴の泥と、外套の擦れを見た。追う側の靴じゃない。逃げる側の靴だ。


「……案内してくれ」


ニナが小さくうなずく。


「街道は使わない。こっち」


ガイが低く言う。


「信用していいのか」


ルカはガイの方を見て、軽く手を振った。


「信用は後でいい。今は動く。

疑いながら歩けるなら、それで十分だ」


ガイが、渋い顔のまま頷く。


「……お前、変なところで落ち着いてるよな」


「慌てると、負けるからな」


ルカの声は柔らかい。けれど、引っ張る手は強い。


三人は窪みを出た。

風の強い方へ、町から遠ざかる方へ。


しばらく歩くと、杭が見えた。等間隔に打たれ、細い鉄線で繋がれている。

札が下がっている。布切れみたいに揺れている。


門はない。越えようと思えば越えられる。

なのに、空気が変わった。声が落ちる。歩幅が揃う。


ニナが振り返る。


「ここから先はね。神殿の札より――評議会の規約が強い」


ガイが唾を飲む。


「……分かったよ。黙って歩く」


ルカは小さくうなずいた。


「それでいい」


杭を越える。

風の匂いが、少しだけ変わった。

ニナ

性別:女性

年齢:不明(見た目は十代半ば)

身長:148cm

体重:42kg

職業:不明

好きなこと:甘いパン、陽だまり、約束が守られた瞬間

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