第十六話 シャドウヒーロー(監視付き)と魔導具の調査
「(小声)……お兄、覚悟はいい?」
「(小声)……ああ。もうどうにでもなれ」
寮(公爵家の別邸)から学園へ向かう馬車の中。俺は、生ける屍を卒業し、悟りを開く寸前の境地にいた。俺の目の前では、義妹が、分厚い革張りの攻略ノートの『学園祭・魔導具暴走テロ事件』のページを開き、真剣な(オタクの)顔で最終確認を行っていた。
「(小声)いい?お兄。昨日の『駒として利用する』作戦だけど、訂正する!」
「(小声)……またか」
「(小声)あの二人は『駒』じゃない!『爆弾』だ!いつどこで爆発して、お兄へのバグった好感度(?)を拗らせるか分からない!」
「(小声)同意だ」
「(小声)だから、今日からの教育方針はこれ!『爆弾処理!』二人の監視を受け入れつつ、テロ事件の調査という『共通の目的』に誘導して、彼らの有り余る興味を『お兄』から『事件』に逸らす!」
「(小声)……それができれば苦労はしない」
俺のスローライフは、今や「二人の超弩級ストーカーを手懐けながら、学園のテロ事件を未然に防ぐ」という、国家機密レベルのハードミッションに変貌していた。
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学園は、今日もカオスだった。俺がCクラスの教室に入り、『孤高のクズ(仮)』 として席に着く。
視線A:ソフィア・フォン・ヴァレンシュタイン
Aクラス校舎の窓から。(……ごきげんよう、レオニール。今朝も『クズ』 の演技、ご苦労さま。あなたの『沽券』 のため、わたくしがその行動の『真意』、全て解剖して差し上げますわ)という、熱烈な「解剖」 の視線。
視線B:アッシュ・ランフォード
Cクラス教室の後方から。(……おはよう、『クズ(策略家)』殿。今日も律儀に『演技』か。面白い。お前のその『研究』価値のある行動、今日も一日、楽しませてもらうぞ)という、冷徹な「研究」 の視線。
(……胃が痛い)
俺は二人の「監視者」に挟まれ、胃薬を(前世の知識で)調合できないか本気で考え始めた。
そこへ聖域(癒し)にして最悪のバグ要因、リリアンが(今日も元気に)駆け寄ってくる。
「レオニール様!おはようございます!」
俺は(今日も)彼女を完全に無視する。
「あ……。……ご無理なさらないでくださいね。(殿下の護符も、レオニール様がソフィア様を説得してくれたのも)私、全部わかってますから!」
(何も分かってないから帰ってくれ!)
リリアンは(今日も)満足げに去っていく。
この一連の流れを二人の「監視者」が(異なる解釈で)分析している。
ソフィア:(フン。わたくしへの濡れ衣を避けるため、あの平民との接触を断っているのね。……徹底していること)
アッシュ:(……なるほど。あの平民には『冷たくする』という『演技』か。だが、あの女の反応……こいつ(レオニール)、あの女にも何か『裏』で接触しているな?面白い……)
(……助けてくれ、エリアーデ!)
俺が(心の中で)悲鳴を上げると、前の席のエリアーデが(心配そうに)振り返り、フリップを掲げた。
『調査開始! 頑張れお兄!』
(鬼か!)
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放課後。エリアーデの『爆弾処理』作戦が、いよいよ火蓋を切った。俺の任務は、学園祭の実行委員(生徒会)が管理する「過去の魔導具倉庫」に侵入し、テロ に使われる「暴走する魔導具」の設計図か、その残骸を見つけることだ。
当然、「誰にも知られず」などもはや不可能。俺がCクラスの教室を出た瞬間、二つの影が(示し合わせたかのように)俺の進路を塞いだ。
「ごきげんよう、レオニール。奇遇ですわね」
(Aクラスの)ソフィアが、廊下の曲がり角で(完璧なタイミングで)待っていた。
「……奇遇だな、『クズ(策略家)』殿。俺も、お前に用があった」
(Cクラスの)アッシュが、俺の後ろの扉から(いつの間に)現れた。
(……知ってたよ!)
俺は(胃痛で)顔を引きつらせながら、『孤高のクズ(仮)』として、二人を冷たく見下ろした。
「……何の用だ。俺は忙しい」
「お忙しいようですわね」
ソフィアが俺の『クズ』ムーブなど意にも介さず一歩近づいてきた。
「その『鍛錬』に、わたくしもお付き合いしますわ。……婚約者の沽券を守るための活動なら、わたくしが把握しておくのは当然の権利ですわよね?」
(昨夜の俺の『クズ(ツンデレ)の理屈』 を、完璧に逆利用してきた!)
「『鍛錬』?違うな」
アッシュが、俺たちの間に割り込んできた。
「こいつは『研究』だ。……なあ、レオニール。お前の『掃除(シャドウヒーロー活動)』 に、俺の『研究』は役立つはずだ。昨夜の『番人』のように、お前が『浄化』し、俺が『解析』する。合理的だろう?」
(こいつは『共闘(?)』 を持ちかけてきた!)
(……エリアーデの言う通りだ)
こいつらは『爆弾』だ。だが、『駒』 にもなる。
俺は二人の(バグった)「監視者」を見据え、『クズ(策略家)』として、ニヤリと笑った。
「……ついてくるか、お前ら」
「!」
「どこへ、とは聞かないことですの?」
ソフィアが(意外な俺の反応に)目を丸くする。
「どうせお前ら(ストーカー)は俺が何をしようとついてくるんだろう?」
「……フン。分かっているなら話が早い」
アッシュが肩をすくめる。
「(小声)……お兄、演技力上がってない?」
物陰から(いつの間に)エリアーデがフリップを掲げている。
「学園祭の魔導具倉庫(生徒会室の地下)だ。お前ら(Aクラス筆頭、Cクラスの天才)なら、俺 より簡単に入れるだろう?」
俺はエリアーデの『爆弾処理』作戦の通り、二人の「権限(と能力)」を『利用する』ことを選択した。
ソフィアとアッシュは一瞬、顔を見合わせた。
((こいつ(レオニール)、わたくし(俺)を『利用する』気だわ……!))
だが、二人の反応は、真逆だった。
ソフィア:(……!わたくし(Aクラス筆頭)の力を、彼が『頼って』きた……?婚約者の沽券を守るための『共犯』 として……!)
ソフィアの頬がカッと赤く染まった。
アッシュ:(……ほう。『研究対象』の分際で、『研究者(俺)』を『利用』 するか。面白い。乗ってやる)
アッシュの目が氷のように冷たく(楽しそうに)細められた。
「……いいでしょう。わたくし(ソフィア)が生徒会に『学園祭の過去資料閲覧』の許可を取り付けますわ」
「……俺は地下倉庫の『古い魔術錠』の解除を担当しよう。お前の『鍛錬』にはそれくらいが釣り合うだろう?」
(……完璧だ、エリアーデ!)
俺は二人の(バグった)超有能な「爆弾」を引き連れ、学園の闇(テロ事件)の調査へと、堂々と(?)足を踏み入れたのだった。




