表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

第十五話 二人の監視者(ストーカー)と次なるシナリオ

 翌朝。寮(公爵家の別邸)から学園へ向かう馬車の中。俺は、生けるしかばねだった。昨夜、『失われた図書館』でアッシュ・ランフォードと遭遇し、「研究対象モルモット」認定されてしまった。俺のスローライフは、もはやちりとなって消え去った。


「(小声)お兄、しっかりして!まだ朝だよ!」


「(小声)……エリアーデ。俺はもう、卒業までこの『クズ(策略家)』のフリを続ける自信がない。俺は、ソフィア(婚約者)とアッシュ(天才)に、二重でストーキングされる人生(学園生活)を送るのか……?」


「(小声)……ごめん、お兄」


 エリアーデは、分厚い革張りの攻略ノートを(昨夜、俺に『バカァ!』と叫んだ 後)開いたまま、遠い目をしていた。


「(小声)アッシュがここまで食いついてくるとは……完全に想定外。あの人、ゲーム本編じゃ、リリアン(ヒロイン)が『聖女の力』を見せるまで、誰にも興味なかったのに……」


「(小声)俺の『シャドウヒーロー』活動が、聖女の力より魅力的だったと?」


「(小声)そうとしか思えない!『クズ』の皮を被って、裏で古代魔術(番人)を浄化する公爵令息とか、研究バカ(アッシュ) の好奇心を刺激しすぎたんだよ!」


 エリアーデの教育方針は、ついに「ヒロイン(ソフィア)をバグらせる」どころか、

攻略対象アッシュのシナリオをバグらせる」という、神の領域(?)に達してしまったようだった。


________________________________________


 そしてその日の学園は控えめに言って「地獄」だった。レオニールを取り巻く人間関係(という名の誤解)は、ついにカオスを極めた。


 Cクラスの教室。俺が席に着くと、クラスメイトたちは昨日までと同様、俺を「孤高のクズ(仮)」として扱い、遠巻きに無視している。これは平常運転だ。


「レオニール様!おはようございます!」


 リリアンが(今日も元気に)駆け寄ってくる。俺はエリアーデの『冷たく突き放す』 方針に従い、彼女と目を合わせず、教科書を広げるフリをして完全に無視スルー

した。


「あ……」


 リリアンは(今日も)悲しそうな顔をしたが、すぐに(今日も)「……ご無理なさらないでくださいね。殿下にいただいた護符 、本当に魔力が安定するんです!」と(無視されているのに)嬉しそうに報告し、満足して(?)自分の席に戻っていった。


(……よし。平常運転)


 俺がそう思った、その時。


(……視線が、二つある)


 一つは、いつもの場所。Aクラス校舎の窓から。ソフィア・フォン・ヴァレンシュタイン が、俺を「解剖アナライズ」する視線を送っている。


(……フン。今日もあの平民リリアンと距離を取っているわね。わたくし(ソフィア)への濡れ衣を避けるため ……本当にそれだけかしら?)


 そして、もう一つ。Cクラスの教室、その後方の席から。


 銀髪の天才、アッシュ・ランフォードが頬杖をつきながら、レオニールとリリアン のやり取りを値踏みするように「研究モルモット」 していた。


 俺がアッシュと目が合うと、彼は(昨夜の借りを返すように)ニヤリと笑い、こう口パクで言った。


『(クズの演技、ご苦労様)』


(この野郎……!)


 俺の胃が、朝一番の激痛を訴えた。


________________________________________


 昼休み。カフェテリア。地獄はさらに加速する。


 俺とエリアーデが(針の筵の)東屋を諦め、カフェテリアの隅でスープを飲んでいると、リリアンが王太子ジークハルトと楽しげにランチをしていた。


(これは『シャドウヒーロー大作戦』の成果だ。喜ばしい)


 そこに、二人の「監視者ストーカー」 が、異なる方向から現れた。

まず、ソフィアが、Aクラスの席から、俺のテーブルに(あえて)近づいてきた。


「ごきげんよう、レオニール様」


「(ブフッ!)」


 俺が(心の中で)スープを噴き出す。


「(小声)お兄!『不可侵』作戦! 」


 俺はソフィアを(エリアーデの指示通り)無視スルーした。すると、ソフィア はフンと鼻を鳴らし、俺にだけ聞こえる声で呟いた。


「……今夜も『鍛錬』ですの?『夜盗』の真似事は、わたくし(婚約者)の沽券に関わりますから、ほどほどになさいませ」


(脅迫か!?)


 彼女は、俺が昨夜「王家の店に忍び込んだ」 ことを盾に、俺の行動を牽制(あるいは『私も混ぜろ』と威嚇)してきたのだ。


 俺が(クズの顔で)ソフィアを睨み返していると、今度は別の方向から、トレーを持ったアッシュが、何の躊躇もなく俺のテーブルの向かい側に座った。


「!」


「(小声)ええええ!?」


  俺とエリアーデが(声にならない悲鳴を)上げる。Cクラスのあの「孤高の天才アッシュ」が学園一の「嫌われレオニール」と相席したのだ。カフェテリア中がざわめく。


「……何の用だ、アッシュ・ランフォード」


 俺が『クズ』の声で威嚇すると、アッシュは(俺の隣にまだ立っている)ソフィアを一瞥し、ニヤリと笑った。


「ヴァレンシュタインソフィア。あんたもこいつ(レオニール)の『研究』か?奇遇だな、俺もだ」


「は……?」


 ソフィアがこの銀髪の(無礼な)男を睨みつける。アッシュは、ソフィアの殺気など意にも介さず俺に向き直った。


「おい、『クズ(策略家)』殿。昨夜の浄化魔術、あれはアストレイア公爵家の古文書にあったものか?それとも、お前のオリジナルか?」


「……答える義理はない」


「そうか。なら、実力で聞くまでだ。……次の『鍛錬』には俺も付き合わせろ。お前のその『不器用な掃除(シャドウヒーロー活動)』には、色々ツッコミたいところがあるんでな」


「……!」


(こいつ俺の『シャドウヒーロー大作戦』に勝手に参加する気だ!)


 このカオスな状況をカフェテリアの反対側から二人の人物が(混乱の極みで)凝視していた。


リリアン。


(え……?え?あのソフィア様と、アッシュ様(孤高の天才)がレオニール様(不憫なクズ)のテーブルに……?レオニール様、いつの間にあのお二人と……?まさか、あのお二人もレオニール様の『本当の優しさ』に気づいて……!?)


王太子ジークハルト


(な……!?何が起きている!?ソフィア(被害者)が、加害者レオニールの元へ……?アッシュ・ランフォード(天才)までが、あの『クズ(策略家)』 と接触を……!?まさか、レオニール……貴様、ソフィアとアッシュまで、裏で手懐けたというのか!?)


 俺の評価は王太子ジークハルトの中で「底知れない、邪悪な策略家クズ」 から、「(王太子ジークハルト 以外の)全勢力を裏で掌握しつつある、魔王クズ」へと最終進化を遂げようとしていた。


________________________________________


 その夜。寮(公爵家の別邸)。エリアーデは攻略ノートを床に叩きつけていた。


「(小声)無理ゲーだあああああ!!」


「(小声)……だろうな」


「(小声)ソフィア様(純情ツンデレ)は『共犯者』 としてお兄を監視ストーキング!アッシュ(研究バカ)は『研究対象』として『シャドウヒーロー大作戦』 に勝手に参加表明!リリアン(聖女) は『お兄はみんなを裏で助けるヒーロー』だと誤解カンスト! 王太子ジークハルトは『お兄は全員を手玉に取る魔王』だと誤解カンスト!」


「(小声)……詰んだな」


「(小声)……詰んでない!」


 エリアーデが(オタクの意地で)顔を上げた。


「(小声)こうなったら、この『バグ』を利用する!ソフィアもアッシュも、お兄の

『秘密(シャドウヒーロー活動)』に興味津々なんだ!なら、その二人を『シャドウヒーロー』の『駒』として利用する!」


「(小声)利用!?」


「(小声)次のシナリオは学園祭で起こる『魔導具暴走テロ事件』!これはお兄一人じゃ処理しきれない!ソフィア(Aクラス筆頭)とアッシュ(天才魔術師) の力が必要なの!」


 エリアーデの『教育方針』は、ついに「主人公(俺)を鍛える」から、「攻略対象(ソフィア、アッシュ)を(俺が)鍛えて利用する」という、無茶苦茶な方向へとシフトチェンジした。俺のスローライフは、もう宇宙の彼方に消えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ