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第十四話 寡黙な天才とクズ(不器用)の理屈

「お前も『あれ』を探しに来たのか?……目的は、同じようだな」


「……何の目的だか、見当もつかないな」


 俺は(クズのフリをして)しらばっくれた。


 アッシュは、俺のその態度を鼻で笑った。「Cクラスで『無能なクズ』を演じ、婚約者ソフィアを公然と侮辱し、裏では王太子ジークハルト やあの平民リリアン を(意図的に)混乱させ、夜な夜なこんな黒装束 で『鍛錬』と称して学園の秘密に干渉する……。お前ほど『分かりにくい』男も珍しい」


(バレてる!バレてる!こいつ、ソフィア以上に俺の行動を『解剖』 してる!)

ソフィアが「監視ストーキング」なら、こいつは「解析ハッキング」だ。Cクラスにいたのは、学園全体を観察するためか!


 俺たちが牽制し合っている、その瞬間。


「グルルルルァァァァ!!」


 『番人』が動いた。魔術書から、影でできた無数の「腕」が、俺たち二人に向かって殺到する!


「チッ……!」

 

 アッシュが即座に防護壁を展開する。俺も反射的にソフィアを庇った時と同じ、高度な防護魔術を展開した。


 ガギン!と硬い音を立てて、影の腕が防がれる。


「……ほう。噂通りの『無能』な魔力だな」


 アッシュが、俺の防護壁の強度を見て(皮肉たっぷりに)呟いた。


「(小声)こいつ……! 完全に俺(の正体)に気づいてやがる!」


「お前の『目的』は知らないが、こいつは俺の『研究対象』だ。邪魔をするな」

アッシュが言う。


「研究対象?」


「ああ。古代魔術の自律型防衛機構ガーディアンだ。サンプルとして持ち帰らせてもらう」


 アッシュの目が、初めて(オタク的な)好奇心で輝いた。


(まずい!こいつ、リリアンが聖女の力で浄化するはずの『番人』を、解析・捕獲するつもりだ!シナリオが根底から崩れる!)


 エリアーデの『シャドウヒーロー大作戦』は、「誰にも知られず処理する」 のが目的だ。


「……断る」


 俺は『番人』の前に立ちはだかった。


「なんだと?」


「そいつは、俺の『獲物』だ」


 俺は、この状況で取りうる唯一にして最悪の「言い訳(クズの理屈)」を選択した。


「旧校舎の魔力溜まりといい、こいつといい……学園内で発生する『力』は、すべて俺(アストレイア公爵家)の管理下にあるべきだ。お前のような一介の魔術師(平民か?)に渡すわけにはいかない」


「……『クズ(強欲)』か」


 アッシュの目が再び氷のように冷たくなった。


「公爵家の権力を笠に着て、古代の遺産すら独占する、と。……噂通りの『クズ』だな」


(よし!完璧な『クズ』ムーブだ!)


 俺はエリアーデの教育方針に(内心で)ガッツポーズした。


「グルァァァ!」


 『番人』が再び影の腕を(今度はアッシュに)放つ!


「チッ……!」


 アッシュが防護壁と攻撃魔術で応戦するが影は再生する。


(エリアーデの攻略ノート通りだ。物理攻撃は無意味。浄化するしかない!)


 俺が浄化魔術を準備しようとした、その時。


「……レオニール」


  アッシュが俺を睨んだまま言った。


「お前、あれが『浄化』でしか倒せないと知っているな?」


「!?」


「さっきからお前が溜めている魔力は攻撃系じゃない。浄化系の上級魔術だ。……なぜお前がそれを知っている?」


(まずい!こいつ魔力の「質」まで読みやがった!)


 俺は(バレた以上は仕方ない、と)再び『クズ』の理屈をひねり出した。


「……旧校舎の魔力溜まりと同質だからだ。俺は(ソフィアと)一度経験している」


「……なるほど。だからお前は旧校舎の事件(未遂)もお前が処理したのか」

アッシュは俺がソフィアと一緒にいたことまでは知らないようだが俺が学園の「掃除屋シャドウヒーロー」であることは確信したようだった。


「……面白い」


 アッシュが不気味に笑った。


「『クズ』を演じながら人知れず学園の『掃除』か。……いいだろう。今日のところは、お前に譲ってやる」


「なに?」


「ただし、条件がある。その『浄化』、俺にも見せろ。古代魔術の自律防衛機構ガーディアンが、現代の浄化魔術でどう霧散するか……そのデータが欲しい」


「……!」


(こいつ、マジの研究バカ(オタク)か!)


 俺はエリアーデと同種の匂いをこの天才魔術師から感じ取った。


「……好きにしろ。ただし今夜のことは――」


「言うわけないだろう」


 アッシュが遮った。


「こんな面白い『研究対象おまえ』を、他人にバラす趣味はない」


(……『研究対象』!?)


 ソフィアの「解剖アナライズ」どころじゃない。俺はこいつに「モルモット」認定された!


 俺はアッシュの冷たい(好奇心に満ちた)視線を背中に感じながら、『番人』 に向き

直った。


(……こうなったら、派手にやるしかない!)


  俺はアストレイア公爵家に伝わる(という設定の、俺のオリジナル)最上級浄化魔術を(わざと詠唱付きで)放った。


「――《聖なる光よ、淀みを払い、原初の静寂に還れ(ホーリー・パージ)》!!」


 まばゆい光が『失われた図書館』を満たし、『番人』は苦悶の叫びと共に、光の粒子となって消滅した。


「…………ほう」


 アッシュが感心したように(あるいは、値踏みするように)拍手した。


「……素晴らしい魔力制御だ、『クズ』殿。お前が『Cクラス』とは、この学園も腐ったな」


「……用は済んだ。失せろ」


 俺は『クズ』の捨て台詞を吐き闇に消えた。


(……これでリリアンとアッシュのフラグは回避できた……はずだ!)


________________________________________


 寮(公爵家の別邸)。俺の部屋でエリアーデが(パジャマ姿で)仁王立ちして待っていた。


「お兄!遅かった!『番人』 は!?」


「……ああ、処理した。だが……」


「だが?」


「アッシュ・ランフォードがいた」


 エリアーデが手に持っていた攻略ノートを(デジャヴのように)床に落とした。


「……は? アッシュ?ゲームのシナリオより早く?なんで!?まさかソフィア様みたいに鉢合わせ……」


「いや。もっと最悪だ」


「最悪?」


「俺と共闘(?)した」


「…………は?」


 俺が事の顛末(クズの理屈、強欲ムーブ、浄化の見学、モルモット認定)を説明すると、エリアーデは(オタクの顔で)頭を抱えて床に崩れ落ちた。


「お兄のバカァァァァァ!!」


「俺のせいか!?」


「なんで攻略対象アッシュと共闘しちゃってるの!しかも『クズ』のフリして!

『寡黙な天才アッシュ』に『秘密を隠す不器用なクズ(お兄)』って、それ乙女ゲームの鉄板フラグじゃない!」


「(小声)……それ、昨日も聞いたぞ」


「(小声)昨日はソフィアツンデレ!今日はアッシュ(研究バカ)!タイプ違いのフラグを同時に建築してどうすんの!」


 エリアーデは(泣きながら)攻略ノートを拾い上げた。


「(小声)最悪だ……アッシュルートはゲームの『真実トゥルース』ルートなの!あいつ、学園の秘密(黒幕)を探ってるキャラなんだよ!」


「(小声)だから俺の行動に……」


「(小声)そう!おシャドウヒーローのことを、『黒幕』か『黒幕に対抗する謎の第三勢力』だって、絶対に興味持っちゃったよ!これ、もう、アッシュからの『監視』も確定だよ!」


 俺は、ソフィアの「解剖アナライズ」の視線に、アッシュの「研究モルモット」の視線が加わったことを想像し、スローライフ(永眠)を本気で願った。



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