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第十三話 バグった婚約者と失われた図書館

 学園は、奇妙な平穏に包まれていた。俺の『シャドウヒーロー大作戦』 の成果は、覿面てきめんだった。


 Cクラスの教室。


「レオニール様、おはようございます!」


 リリアンが(今日も元気に)駆け寄ってくる。俺はエリアーデの新方針(リリアンには『冷たく突き放す』&ソフィアには『不可侵』)に従い、彼女と一切目を合わせず、教科書を広げるフリをして完全に無視スルーした。


「あ……」


 リリアンは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに(昨日と同じように)「……ご無理なさらないでくださいね。あ、そうだ、昨日、殿下にいただいた護符、すごく温かいんです!」と(無視されているのに)嬉しそうに報告を始め、満足して(?)自分の席に戻っていった。


(……俺の『孤高のクズ(仮)』ムーブは、彼女の中では「(今日も私(と周囲)に迷惑がかからないよう、わざと冷たくしてくれてる……素敵!)」というポジティブ誤変換に固定されたらしい……)


 俺の胃がキリリと痛んだ。


 そして、カフェテリアでの昼休み。昨日、俺が「クズ(ツンデレ)の理屈」 で共犯関係 を結んでしまった(?)、ソフィア・フォン・ヴァレンシュタイン。彼女は、今日もAクラスの席から、俺を「監視」していた。だが、その視線は、昨日までの「混乱」 や「興味」とは、明らかに質が変わっていた。


(……なんだ、あの視線は)


 軽蔑ではない。怒りでもない。かといって、好意リリアンのようなでもない。それは、例えるなら……「解剖」するような視線だった。


(あなた(レオニール)が『わたくし(ソフィア)の沽券』 のために動いたというのなら、その『真意』を、あなたの行動の全てから読み解いて差し上げますわ)


 そんな、Aクラス筆頭としての、執拗なまでの「分析」の視線だった。


 俺がリリアンを冷たく「無視」する姿を見ても、ソフィアは眉一つ動かさない。


(……フン。わたくし(ソフィア)への濡れ衣を避けるために、あの平民リリアンと距離を取っているのね。分かりやすいこと)


 そんな声が聞こえてきそうだった。


(『不可侵アンタッチャブル』どころか、『常時分析アナライズ』されてるじゃないか!)


 エリアーデの作戦は、またしても破綻していた。


 この奇妙な三角関係(?)は、王太子ジークハルトの混乱にも拍車をかけていた。 彼は(今日も)リリアンに護符の調子を尋ねるなど、優しく接している。リリアンも彼に懐いている。


(よしよし、ヒロインとヒーローのフラグは順調だ)


 俺が(スープを飲みながら)『シャドウヒーロー』としての成果を確認していると、

王太子ジークハルトの視線が、俺とソフィアの間を往復した。


(何が起きている……?)


 王太子の表情にはそう書いてあった。


(ソフィアは昨日からリリアン嬢への嫌がらせをやめた。だが代わりにレオニールを監視ストーキングしている。脅されているのか?いや、それにしてはソフィアの様子が……。リリアン嬢はレオニールに冷たくされてもなぜか嬉しそうだ……?レオニール……貴様、一体、裏で何をした……!?)


 王太子ジークハルトの中で、「レオニール=底知れない、邪悪な策略家クズ」という評価が、不動のものとなりつつあった。


(……よし。断罪フラグ、絶好調!)


 俺はもう笑うしかなかった。


________________________________________


 その夜。寮(公爵家の別邸)。俺の部屋で、エリアーデが攻略ノートの新たなページを開いた。


「(小声)お兄、ソフィア様の『バグ』は順調だから、このまま『シャドウヒーロー大作戦』 を続行するよ!次のイベントはこれ!」


 彼女が指差したのは、『1年次・夏前:失われた図書館と古代魔術書』という項目だった。


「(小声)これだ。ゲームではリリアンが『何か』に導かれて、学園の時計塔の地下にある『失われた図書館』に入り込んじゃう。そこで、ゲームのサブ攻略対象の一人、『寡黙な天才魔術師・アッシュ』と出会い、二人で閉じ込められる」


「(小声)閉じ込められる?」


「(小声)そう。この図書館は古代魔術の『番人』(魔術書が魔物化したやつ)が守ってるの。二人は協力して番人を倒し(実際はリリアンの力(無自覚) で弱体化する)、古代魔術のヒントを得てアッシュとのフラグが立つ」


(……聖女バレ、新キャラ(攻略対象)登場、フラグ成立。最悪の三点セットだな)


「(小声)だからお兄の任務はこれ!リリアンが巻き込まれる前に、『シャドウヒーロー』として失われた図書館に忍び込み、この『番人』を(誰にも知られず)処理する!」


「(小声)……分かった。今夜か?」


「(小声)ううん、ゲームでの発生は三日後。準備期間がある。……ただし!」


 エリアーデが真剣な顔で俺を見た。


「(小声)お兄、絶対にソフィア様にバレないでよ!二度も鉢合わせとか、ありえないから!あの人、今お兄のこと『解剖』モード なんだから絶対につけられてるよ!」


「(小声)……努力する」


________________________________________


 そして、三日後の深夜。俺は、エリアーデの(前世のオタク知識が詰まった)完璧な「監視ソフィア撒きプラン」を実行し、寮(別邸)を抜け出すことに成功した。


(さすがに三度目はない……はずだ)


 黒装束(シャドウヒーロー仕様)に身を包み、月明かりを頼りに時計塔の地下へと侵入する。古い石造りの階段を降りると、ひんやりとした空気と共に、強大な魔力の気配が漂っていた。


(……ここか)


『失われた図書館』。巨大な書架が並ぶ空間の中央に、一冊の古びた魔術書が、鎖で厳重に固定された台座の上で、不気味な紫色のオーラを放っていた。あれが『番人』だ。


(リリアンが来る前に、速攻で浄化する……!)


俺が魔力を高め、浄化魔術を放とうとした、その瞬間。


「――やはり、お前か」


「!?」


 背後からの静かだが鋭い声。俺は(絶望しながら)振り返った。

書架の影から現れたのはソフィア(黒装束)ではなかった。銀色の髪を月明かりに輝かせ、俺と同じCクラスの制服を着崩した長身の男子生徒。その目は、氷のように冷たく、俺(黒装束)を射抜いていた。


 ゲームのサブ攻略対象の一人。『寡黙な天才魔術師』。アッシュ・ランフォードだった。


「公爵家のレオニール・アストレイア。……いや、『噂のクズ(策略家)』殿、か」

アッシュは、俺がシャドウヒーロー(レオニール)であることを見抜き、そして、俺が隠している『番人』の魔術書を見て、ニヤリと笑った。


「お前も『あれ』を探しに来たのか?……目的は、同じようだな」


(目的が同じ!?)


 エリアーデの攻略ノートには、彼が「黒幕の手先」だとも、「古代魔術を探している」とも書かれていなかった。俺の『シャドウヒーロー大作戦』は、ついにゲームの「イレギュラー(新キャラ)」と正面衝突してしまった。



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