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13-5 貿易商の裏の顔

「まさか……あの時の狙撃犯が平泉……なんですか?」


 私の乾いた声がウォー・ルームの空気に吸い込まれていく。

 平泉潤二郎。かつての恋人であり、私をモラハラとDVで支配した男。彼は確かに高校時代は射撃競技で全国トップクラスの成績を残していた。

 とはいえ、それはあくまでスポーツの話だ。競技で的を撃ち抜くことと実弾で人間を狙い撃つことは次元が違う。


「にわかには信じ難い話だとは思う」

 エリオットは私の困惑を読み取ったようにモニターの地図を指し示した。

 そこには平泉の渡航履歴を示す赤い線が、蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。


「気になったので可能な限り平泉の行動履歴を遡り、彼が頻繁に出向いている海外の渡航先をDIAに徹底的に調べさせたんだ。見てくれ。彼が『貿易業の商談』と称し、第三国を経由して訪れていた国々を」


 私がその世界地図に目を凝らすと、ある奇妙な共通点が浮かび上がってきた。

 中東の紛争地帯に近い小国、政情が不安定な南米の独裁国家、そして東欧の旧共産圏国家。

 いずれも、観光客が好んで行くような場所ではない。


「なぜか、彼は我々アメリア国とは疎遠、もしくは対立関係にある国への出国が極端に多い」


 エリオットの声のトーンが一段低くなった。

「彼が本当に真っ当な貿易業をしているなら、日本との関係が深くない国のニッチな市場ばかりを狙うのは不自然だ。表向きは雑貨や工芸品の輸入となっているが、税関のデータと照らし合わせても、彼の申告した輸入品の量と実際に動いている金の流れが合致しない」


「つまり密輸や、あるいはもっと危険な取引に関わっている可能性があると?」

「その通りだ。出国先で具体的に何をしているかまでは、まだ掴めていない。だが、今の僕の平泉に対する心証は真っ黒だ」


 背筋に冷たいものが走った。

 私は彼を女を食い物にするだけの卑劣な男だと思っていた。

 しかし、もしエリオットの推測が正しいならば、平泉潤二郎という男は私の想像を遥かに超える闇に足を突っ込んでいることになる。


「貴重な気づきをありがとうございます。今の話を踏まえると、私の計画も練り直した方が良さそうですね」


 私は震える指先を隠すように拳を握りしめ、努めて冷静に言った。

 これまでの復讐相手とは訳が違う。もしアメリアの影響が及ばない国際的なテロ組織や裏社会と繋がっているならば、古河の時のような万全のサポート体制を期待することは難しいだろう。千景を救うどころか、私たち全員が危険に晒されてしまう。


「せっかく計画を練ってもらったのにすまない」

 エリオットは申し訳なさそうに眉を下げた。

「しかし、古河の時もリサーチ不足によってミサキを危機に晒してしまった。君を危険な目に遭わせるのは二度と御免だ。だから、今回はもう少し情報を集めてから動くことにしよう」


「はい。慎重に行きましょう」

 私は深く頷いた。

 焦りは禁物だ。

 私は平泉のことを知っていたつもりで、その裏の顔と闇深い属性を全く知らなかったのだ。

 相手の底が見えない以上、まずは深淵を覗くための灯りが必要だ。


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