13-4 元カレはスナイパー
「……すみません。取り乱しました」
「いいや、友人を想う君の心は尊いものだ。けれども、その想いを無駄にしないためにも今は知性を武器にして欲しい」
エリオットは私を促し、再びデスクの前に座らせた。
「本題に戻ろう。先ほど君は平泉が絶対悪であると公に証明するための舞台、そして枠組みが必要だと言ったね」
「はい」
私は悔しさを奥歯で噛み砕きながら頷いた。
千景を救う唯一の方法。それは既に洗脳済の彼女を説得することではない。
彼女の目の前で、平泉潤二郎という男の化けの皮を剥がし、その醜悪な本性を白日の下に晒すことだ。
「君の描いているヴィジョンを教えて欲しい。それともう1点」
エリオットの目が鋭く光る。
「DIAの調査資料を読み込んで、平泉という人間の過去から現在について、今回ミサキが『初めて知った事実』があれば教えて欲しい。我々が知っていて、平泉が『バレていない』と思い込んでいる情報があれば、それはこちらの武器になり得るからだ」
私は手元のタブレット端末を操作し、平泉の調査レポートの或るページをモニターに映し出した。
そこに記されているのは、彼がひた隠しにしてきた金銭事情と切迫した現状だった。
「私が付き合っていた頃、彼は『個人貿易商』を名乗り、輸出入ビジネスを手がけていると言っていました。実家は鎌倉の資産家で、今は一時的に親と折り合いが悪くカードが止められているだけだと」
「典型的な詐欺師のプロフィールだね」
エリオットが呆れたように肩をすくめる。
「ええ。ですが、DIAの調査で分かった事実はもっと悲惨でした」
私は画面上の数字を指し示した。
「実家は資産家ではなく、むしろ生活に困窮するほどの状況でした。また、彼の両親は一昨年、去年と相次いで亡くなっており、警察の結論は二人とも自殺とのことでした。一方で両親から絶縁されていた平泉は、闇金業者を含む複数の金貸しから、総額で三千万円近い借金をしています」
「三千万か……。彼程度の男にしては随分と膨らんだものだね」
「この借金は事業失敗によるものではありません。ギャンブルや遊興費、度重なる海外旅行。後先考えず、見栄を張るためだけに借金を増やしては、刹那的な快楽にふける救いようのない男です」
かつて、私が生活費を切り詰めて彼に渡していた金も、全ては彼の虚栄心を満たすためだけの浪費に消えていたのだ。そう思うと改めて腸が煮えくり返る思いがした。
エリオットが一瞬だけ躊躇った後、私に尋ねてきた。
「僕が気になった点がある。平泉は高校時代にインターハイの射撃競技で上位入賞したことがある。もちろん競技に実弾は使用せず光線銃を使うそうだが。この経歴、ミサキは気にならなかったかい?」
DIAの調査結果で私の関心を引いたのは、多くの女性たちの財産と尊厳を食い物にしてきた平泉の洗脳や搾取の手口、そして家庭環境だった。
「かつての平泉が、どんな男だったかは気になりました。確かにインハイで上位入賞は凄いとは思いますが……私にはピンと来ませんでした」
エリオットは、その青い瞳で真っすぐに岬を見据えて告げた。
「今から話す内容は、僕の個人的な推測に過ぎない。……だが、思い出して欲しい。君と僕が初めて出会った夜のことを。あの時、僕の命を狙った狙撃手と似ているんだ。現場の防犯カメラに僅かに映っていた犯人の姿と平泉の姿が」
「……!!」
私は絶句した。




