13-1 頂き男子じろちゃん
永田町の権力者たちに冷や水を浴びせ、ライブ配信で公開処刑した古河達哉を治外法権の地下室へ閉じ込めてから一週間が経った。
短い秋は終わりを迎え、東京の空には冬の気配を含んだ乾いた風が吹き始めていた。
大使館のスイートルーム。
私は、その広すぎるリビングのソファに深く沈み込み、手元のタブレット端末に映し出されたDIA作成の調査資料を睨みつけていた。
画面に並んでいるのは、無機質な文字列と幾つかの顔写真。だが、そこに映し出されているのは、吐き気を催すほどの男の悪行と、男に人生を破壊された女性たちの悲惨な末路だった。
三人目のターゲット、平泉潤二郎。
かつて、私に愛を囁きながら、一方で私の心を蹂躙し自尊心を徹底的に食い荒らした男。
(……最低)
思わず、胸の内で呻いてしまう。
DIAの情報収集能力は、私の想像を遥かに超えていた。彼らが洗った平泉の半生は、まさに女性たちの屍の上に築かれたものだったからだ。
被害者は私だけではなかった。
過去数年にわたり、彼が関わった女性は判明しているだけで十二人。その全員が似たような末路を辿っている。
精神的な疾患による退職、多額の借金や自己破産など。彼女らの中には自殺未遂者が三人、行方不明者が二人いた。
平泉の手口は常に同じだ。
最初は女性の心を開かせるために、優しく理想的な王子様を演じる。相手の承認欲求を満たし、「君を理解できるのは僕だけだ」と刷り込みをかける。
そして、相手が彼に依存し始めたタイミングを見計らって、徐々に支配の牙を剥く。
『お前はダメな人間』『俺がいないと何もできない』
日常的なモラハラとアメとムチの使い分けによる洗脳。ガスライティングと呼ばれる精神的虐待。
古河達哉はネットという広場に信者を集め、熱狂の中で金を巻き上げる「劇場の王」だった。だからこそ、そのステージを逆に利用し虚構を暴くことで、社会的地位を剥奪し公開処刑を達成できた。
しかし、平泉は違う。
彼は閉ざされた関係性の中で相手を服従させ、たった一人の相手の心をじっくりと時間をなぶり殺す「シリアルキラー」だ。
外からは見えない。痕跡も残りにくい。被害者自身さえ、自分が殺されかけていることに気づかないまま、血を一滴残らず吸い尽くされる。
資料をスクロールする指が震えた。
怒りではない。恐怖だ。
もし、あの雨の日にエリオットに出会っていなければ。私も今頃は、このリストの十三人目として名も無き屍になっていたかもしれない。
コンコン、と控えめなノックの音が静寂を破った。
「岬様。お時間です」
ドア越しに広尾の声がした。
私はタブレットの電源を落とし、深呼吸をしてソファから立ち上がった。
いつまでも感傷に思考を引っ張られている訳にはいかない。
女性を食い物にするシリアルキラーを断頭台に引きずり出し、公衆の面前で首切り落とすための作戦を、これから立てなければならないのだから。




