12-6 傀儡はあなた
「鶴ヶ島さん。あなたは、助かりたいですか?」
「た、助かりたい! もちろんだ! 何でもする! 金ならある! タワマンも車も、全て荒川様に差し上げますから!」
鶴ヶ島は、壊れた玩具のように何度も頷いた。
「お金なんていりません」
岬は鶴ヶ島の申し出を切り捨てた。
「私が欲しいのは、古河達哉の持つもの『全て』です」
「す、全て……?」
「ええ」
岬は口の端をわずかに吊り上げる。
「古河が隠している資産、裏帳簿、まだ我々が把握していない余罪、そして彼が上級信者たちと共有している秘密。 それら全てを洗いざらい吐き出しなさい」
「なっ……!」
先ほどまで横ですすり泣いていた古河が反応し、息を呑んだ。
「さらに」岬は続ける。
「自白した内容の裏取りが出来たら、あなたをここから解放します。そして、古賀達哉のコミュニティを継承してもらいます。あなたが新たなトップとして組織を率いるということです。やりますか?」
今の鶴ヶ島に断る理由など無かった。
「やります! やらせてください! 俺はソイツの秘密を全部知ってる! 全て喋らせてもらいます、荒川様!」
エリオットが岬の提案に口添えする。
「君と同じSランク信者の神崎。 君がトップになったら彼を頼りたまえ。 彼は、君と私たちの信頼できる仲間だ」
鶴ヶ島の秒速の裏切りに、隣で唖然としていた古河が絶叫した。
「おい待て鶴ヶ島ァ!」
ようやく泣き止んだ古河が、苛立ちを隠せない様子で鶴ヶ島に八つ当たりを始めた。
「バカかお前。さっきから荒川、荒川って。その女は『滝乃川岬』っていう本名なんだよ」
「……え?」
鶴ヶ島がポカンと口を開けた。
「たきのがわ?」
「ああ。俺の高校時代の同級生で、クラスカーストの底辺だった陰キャ女だ。お前さ、女とヤルことしか考えてないから、こんな奴に嵌められるんだよ。この脳チン野郎が」
古河は嘲笑うように鼻を鳴らした。
自分も罠にかかった分際で、他人を見下す癖だけは抜けないらしい。
その言葉に、鶴ヶ島の顔が屈辱と怒りで赤く染まった。
「人のことは言えないでしょう、古河さん」
遂に、鶴ヶ島の口から本音がぶちまけられる。
「さっき、ここに連行される時に聞かされましたよ。あなたがアメリア大統領にケンカを売ったって。周りの助言に耳を貸さない金の亡者だから、このザマなんですよ!」
「あぁ!? 誰に向かって口きいてんだ、この三下が!」
「三下だと!? パートナーだと言ってヘラヘラしてたのはお前じゃないか!」
二人の罵り合いはヒートアップし、その汚い絆は瞬く間に引き裂かれていく。
エリオットがやれやれと言った表情を浮かべ、手にしていたリモコンのスイッチを押す。
古河が座る電熱椅子が一気に赤みを増した。
「ウギャアァァァァァァァーーーッ!」
古河は獣の咆哮のような苦痛の声を上げた。
「静かにしたまえ。まだ我々が話していただろう?」
エリオットが眉をひそめる。
まだ、古河は死んではいない。
しかし、電熱椅子に焼かれ気絶したため、ついに何も言えなくなってしまっていた。
沈黙は同意と同じ。
ここに、古河に代わる組織のリーダーとして鶴ヶ島子規が指名された。




