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12-5 へし折りたい、その心

 岸波文男という権力の盾。スマートフォンというネット界での権力を担保する矛。


 その両方を奪われた彼は、もはやただの無力な、むせび泣く肉塊も同然だった。


「……見苦しいな」

 エリオットは、汚物を見るような冷ややかな視線で二人を見下ろし、小さく溜息をついた。


「これまで散々に他人を踏みつけ、搾取と欲望の限りを尽くしてきた人間には相応しい末路ではあるがね」


 彼は隣に立つ岬に視線を移した。

 その青い瞳は、岬の決断を静かに待っている。

「君のルールでいこう、ミサキ。これから君は彼らをどうしたいんだい?」


 岬は、ゆっくりと一歩前へ出た。

 ヒールの音が冷たいコンクリートの床に響く。

 彼女は、放心状態の古河ではなく、あえて隣で震えている鶴ヶ島の目の前に立った。


 古河には、ひたすら肉体的な苦痛を与えるだけでは足りない。

 それでは一時的なカタルシスを得るだけで、彼の歪んだ精神を根底からへし折るには足りない。


 彼が最も信頼していたもの。それは彼がネットの世界で築き上げた巨大な王国(コミュニティ)や、その集金システム。

 その全てを彼の目の前で、彼が頼りにしていた側近の手によって乗っ取らせる。

 それが、岬の描いた制裁計画。


 これからが本当の地獄だ。古河は、手にしていた人材、組織、財産の全てをじわじわと奪われていく。長い時間をかけて、まるで全身の生皮を剝がされるように精神的に(なぶ)られていく。


 日本に居場所を失くした彼は、持つもの全てが完全にゼロになるまでの顛末を、この地下室のモニターで見続けなければならない。彼の命が尽きるか、発狂するまで。


「鶴ヶ島さん」

 岬は、ほんの少しだけ憐れむように声をかけた。

「あなたは、助かりたいですか?」


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