12-1 #須磨ぴょん
夜の帳が下りた東京。
岬たちは、大使館内の作戦司令室――ウォー・ルームに帰還していた。この後ガブリエルも合流する予定となっている。
壁の巨大モニターには、現実とは思えないほど滑稽でシュールなニュース速報が流れていた。
『――先ほど、国会議事堂の衆議院本会議場で歴史的な瞬間が訪れました』
興奮気味なアナウンサーの声と共に映し出されたのは、がらんとした衆議院本会議場。議席や大臣席には誰もいない。
だが、議場の中央にある議長席に、アメリア連邦国大統領のガブリエル・ハルフォードと、日本国総理大臣の須磨光一が並び立っていた。
これだけでも異例中の異例だが、続く映像は更に驚くべきものだった。
『議場にて両首脳は「日本とアメリアの絆は永遠に揺るがない」とする共同声明を発表。その声明と共に公開された映像をご覧ください!』
公開映像が流れ出す。
そこには、議長席で肩を並べる巨漢のガブリエルと、小柄な須磨総理がいた。
須磨は満面の笑みを浮かべると、その場で「ぴょん」とウサギのようにジャンプし、高い位置にあるガブリエルの掌にハイタッチをしたのだ。
無音の映像からパシッという乾いた音が聞こえてきそうなほど、見事な跳躍だった。
ガブリエルは、あたかも愛犬の芸を褒める飼い主のように、温和な笑顔で須磨の跳躍を受け止めている。
『須磨総理、渾身の大ジャンプ! これには、その場にいた取材陣からも拍手が送られていました!』
滝乃川岬は、呆気にとられてその映像を見つめていた。
隣に立つエリオットは、苦笑して肩をすくめる。
「父の演出だ。『常に国のトップたる者は、国民の欲する俳優を演じ切らねばならない』というのが彼の持論でね。一国の首相に対しての要求が少々過ぎるけど、効果は抜群みたいだ」
エリオットが手元のタブレットを操作して、ウォー・ルームの巨大モニターにSNSのトレンドを映し出す。
そこには、不自然で異様なランキングが表示されていた。
1位:#須磨ぴょん
2位:#日アメ永遠の絆
3位:#大統領来日
……
28位:#新宿の爆発音
「……すごい」
岬は思わず呟いた。瞬く間にネットミームの中心に躍り出た『須磨ぴょん』。
つい数時間前、新宿のど真ん中で軍事ヘリがビルを襲撃し、特殊部隊が突入するという前代未聞の事件が起きたのに。
しかし、ネットの話題は須磨総理の垂直跳び――『須磨ぴょん』一色に染まっていた。
「これがアメリアの情報操作力……」
「そうだ。多くの人々は難しい真実よりも、見た目に分かりやすく刺激的なコンテンツを好む。新宿の件は公式には『テロ対策訓練中の事故』として処理され、マスコミも須磨政権に忖度して報道を控えている」
並行してネット上では、徹底的な世論工作と情報統制が敷かれていた。
新宿のビルを襲った武装集団の装備から「アメリア軍ではないか?」と推測する鋭い投稿もあったが、そうした投稿は瞬く間に「陰謀論」「情弱乙」「アニメじゃないから」といった大量のリプライでレッテルを貼られ、否定一色に染められていった。
さらに核心に迫るような投稿をしたアカウントも、アメリア軍のサイバー部隊によって即座に投稿内容の削除や垢BANをされ、誰の目にも留まることなくデジタルの海に霧散していった。
真実は、巨大な権力によって簡単に上書きされる。
その恐ろしさと、その権力を味方につけているという心強さが、岬の胸の中で複雑に入り混じっていた。




