11-7 『日本の恥 お前はクビだ!』
夕闇が迫り始めた永田町の路上。
古河達哉の身柄は、まるで粗大ゴミのように民自党本部から引きずり出され、アメリア連邦国の国防情報局エージェントたちに引き渡された。
エージェントたちに連行される古河の眼前に広がるのは、アメリアの威信を具現化したような光景だった。
屈強なシークレットサービスが作る黒い壁。その背後に鎮座する装甲車のような黒いリムジン。
そして、その中心に一人の男が立っていた。
黒色の高級スーツに赤いベースボールキャップ。サングラスをしていても、伝わる強烈な威厳。
(ア、アメリア大統領……?)
驚愕と恐怖で古河の膝が崩れ落ちそうになるが、両脇の男たちが無理やり支える。
ニュースで見た顔だ。
今ここに大統領が現れたということ。
それは、新宿での軍隊による襲撃、電波妨害によるネット配信の強制停止、超法規的措置による身柄の引き渡し、それら全てが彼の命令だったことの裏付け。
自分が知らないうちに喧嘩を売ってしまった相手の巨大さを、今更ながら古河は痛感していた。
ガブリエルはサングラスの位置を人差し指で直して、古河を見下ろした。
そして、流暢な日本語で口を開く。
「やあ。ご機嫌いかがかな? 古河達哉君」
「……は、はい?」
古河は耳を疑った。あまりに自然な日本語の発音。
ガブリエルは、かつて駐日大使を務めており知日家でもあったため、日本語は堪能だった。
「単刀直入に言おう。 君には選択肢がない」
ガブリエルの声は穏やかだが、そこには有無を言わせぬ絶対的な圧が感じられた。
「君が犯した不正、悪事、罪。 それらを清算する時が来た」
先程から岬の視線は、ガブリエルと古河の近くにいるエージェントたちに移っていた。
彼らは見慣れない機材を構えていた。見た目から撮影カメラや高感度な集音マイクの類だと思われる。
少し離れた車中の窓から、その機材を扱うエージェントたちを見た岬は、隣のエリオットに問いかけた。
「エリオットさん、あれは?」
エリオットは冷ややかな笑みを浮かべ、手元のタブレットを岬に見せた。
そこにはライブ配信の動画が表示されていた。
タイトルは『 Japan's shame, you're fired! 』(日本の恥 お前はクビだ!)。
配信者は不明。そして、その映像クオリティは映画並みに鮮明だった。
映し出されているのは、すぐ傍で行われているガブリエルと古河の会話。
古河の顔にはモザイクがかけられている。しかし、音声は加工されていないようだ。
「この映像は今、DIA技術班が、父と古河の会話にリアルタイムで英語字幕を付け、全世界に生配信している」
岬は息を呑んだ。
古河達哉の最大の武器であったネット配信。ガブリエル親子とDIAは、その同じ武器を用い、逆に彼を追い詰める最終兵器へと変えたのだ。
「顔は隠してあるが、声は一切加工していない。彼の信者たちなら、すぐに『教祖様』の声だと気づくようにしてある」
ライブ配信中であることを知らない古河は、プライドを捨てて必死にガブリエルにすがりついていた。
「待ってください! 俺は悪くないんです! 俺は被害者なんです!」
その見苦しい命乞いは、高感度マイクを通じてネットの海へと放流されていく。
「被害者? 新宿で私の娘を襲っておいてか?」
「ち、違います! あれは俺の意志じゃない! 全て岸波文男……俺の伯父がやらせたことなんです!」
古河は叫んだ。保身のために出まかせの嘘を並べ、最大の庇護者に責任転嫁をする。
ガブリエルは、わざとらしく驚いたふりをして問い返す。
「ほう? 元総理の岸波氏が黒幕だと?」
「そうです! アイツが俺に汚れ仕事を全て押し付けた! 俺は資金集めの道具に利用されただけなんです! コガコインで信者を集めたのも、アイツの政治資金を捻出するためにやらされた詐欺なんだ!」
配信画面のコメント欄が、滝のような勢いで流れ始めた。
『おい、この声……本当に古河達哉じゃね?』
『号泣する自称カリスマ経営者www』
『マジかよ!岸波が黒幕!?』
『詐欺って言ったぞ!』
『全部伯父のせいにしてて草』




