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11-6 Make Amelia Great Always  

「ターゲットが出てきました」


 広尾の声と共に、民自党本部の巨大な正面ゲートがゆっくりと開かれた。

 そこから現れたのは、黒スーツの男たちによる物々しい隊列だった。しかし、その中心にいる男の姿は、ひたすらに惨めだった。


 古河達哉。

 つい数時間前まで、数十万の信者たちの王として君臨していた男。

 今は両手を手錠で拘束され、二人の大男に両脇を抱えられながら、足を引きずるようにして歩かされている。


 隊列が敷地を一歩出た、その時だった。

 周囲に待機していた黒塗りの車列からDIAエージェントたちが堰を切ったように飛び出し、古河の身柄を確保すべく押し寄せた。

 日本の護送隊からアメリアのエージェントへ。

 古河というお荷物が法治国家から見捨てられ、復讐者の手の内へと完全に移譲された瞬間。


 間を置かず、エージェントたちが古河の周囲を固めるとタイミングを計っていたかのように、一台の巨大なリムジンが滑り込んできた。

 アメリア連邦国大統領専用車『キャデラック・ワン』。

 その重厚な後部ドアが開く。


「お待ち下さい閣下! 危険です! 車内にお戻りください!」


 周囲のシークレットサービスたちが慌てて制止しようとする声を意にも介さず、一人の男が堂々と降り立った。

「大丈夫だ。君たちが、しっかり私を守ってくれるからな」


 ガブリエル・ハルフォード大統領。

 彼は、仕立ての良いアメリア製スーツを着こなしていたが、その頭には不釣り合いな赤色のベースボールキャップを被っていた。

 さらに目元は大きなサングラスで隠されている。


「……あれは、変装のつもりなんでしょうか?」


 少し離れた車窓から、加えて古河の間近にいるエージェントが送る映像を通じて、その光景を見ていた岬は思わず呟いた。

 赤い帽子のフロント部分には、白い刺繍で『 Make Amelia Great Always 』(アメリアを常に偉大に)というスローガンが刻まれている。

 変装にしては、さすがに派手で自己主張が激しすぎる。


「あれは、父なりの茶目っ気を込めたパフォーマンスだよ」

 隣に座るエリオットが呆れたつつも、どこか愛おしそうに苦笑した。


「しかし、危険すぎる。世界で最も命を狙われる立場なのに、予定外の訪問地で堂々と姿を現し、世界に向けたパフォーマンスをするなんて。あとで、ミサキからも父に自重するよう忠告してくれるかい?」


「私がですか? 私ごときが意見するなんて、恐れ多いのでは……」

 岬が困惑すると、エリオットは静かに首を横に振った。


「いや。昨年に父は、妻……僕の母を亡くした。その後、人前では気丈に振舞っていたが、僕から見ると明らかに元気が無かった」


 エリオットの瞳が少しだけ寂しげに細められる。

「でも、ミサキが娘になってからの彼はいつも楽しそうだ。父はミサキの眼差しが亡き母に似ていると言っていた。僕もそう思う」


 エリオットが自らの言葉を引き継ぎ、続ける。

「だから僕があれこれ言うよりも、君からの言葉の方が彼には効果があるんだ」


 エリオットの優しい微笑みに、岬は胸の奥が温かくなるのを感じた。

 世界最強の権力者も、一人の人間であり父親なのだ。

 岬は赤い帽子の男を先ほどまでとは違う、少し親しみを含んだ目で見つめ直した。


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