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11-5 辱めて辱めて辱めて辱めて辱めて参らせてやる

 民自党本部前の路上。

 古河を待ち構え停車している車中で、その一部始終は報告されていた。


「エリオット様。DIA技術班より入電。古河のスマートフォンへのピンポイント電波妨害(ジャミング)を実施。成功したとのことです。通信は完全に遮断されています」


 運転席の広尾さやが、インカムに手を添えながら報告する。

 後部座席ではエリオットと岬が報告を聞きながら、一台のタブレットを覗き込んでいた。

 画面の中の配信映像はブラックアウトし、完全に沈黙している。


「そのようだね。ギリギリのタイミングだったが……ミサキの名前を拡散される前に阻止できてよかった」


 エリオットは心底安堵したように息を吐き、隣に座る岬に優しい視線を向けた。

 岬も肩の力が抜けるのを感じていた。

 もし、あのまま配信が続いていたら。自分の名前がテロの首謀者として世界に拡散されていたら。

 復讐は遂げられたとしても、その後の人生は平穏と無縁のものになっていただろう。


「ありがとうございます。エリオットさん、広尾さん。皆さんの迅速な対応のおかげです」


 岬が礼を言うと、エリオットは小さく首を振った。


「礼を言うのは早いよ。DIAが通信遮断を実施したのは、父ガブリエルからディールが成功したという連絡があったからだ。間もなく、民自党に見捨てられた古河が建物から出てくる」


 その言葉で、岬の瞳に鋭い光が宿った。

 ついに時が来た。

 高校時代、自分を地獄に突き落とした男。ネットの王を気取り、数多の人々を騙し搾取し、彼らの運命を弄び続けた男。

 全てを失った奴が無様に引きずり出される瞬間まで、あと少し。


「……行きます」


 岬は逸る気持ちを抑えきれず、ドアノブに手をかけた。

 この目で見てやりたい。

 荒川未沙でなく、滝乃川岬として。

 あの男が、どんな絶望を顔に描いているのかを。


「待つんだミサキ」


 エリオットの手がドアに手をかけた岬の手に、そっと重ねられる。


「エリオットさん?」


 岬が振り向くと、エリオットは真剣な眼差しで首を横に振った。


「気持ちは分かる。だが、今この場で僕たちの顔を晒すのはリスクが高すぎる。マスコミは規制されているが、どこに野次馬や古河の信者が潜んでいるか分からない。今の時代、スマホさえあれば誰でもパパラッチになれてしまう」


 彼の言葉には司令官としての冷徹な判断と、岬を案じる個人的な感情が入り混じっていた。


「それに、ここは我々のテリトリーじゃない。西新宿とは違い、事前の仕込みや安全対策が不十分だ。僕らを狙う狙撃者(スナイパー)や岸波の息のかかった刺客が、君を狙わないとも限らない」


 岬はエリオットの手の温もりを感じながら、冷静さを取り戻していった。

 そうだ。下手に感情に任せて飛び出せば、これまでの計画全てが水泡に帰すかもしれない。

 もう感情だけで動く軽率な被害者であってはいけない。私は、多くのエージェントを率いる復讐の司令塔なのだ。


「仰る通りです。すみません、少し熱くなってしまいました」


 岬はドアノブから手を離し、シートに深く座り直した。


「焦る必要はないさ。奴との同窓会なら、日本の法律が及ばないあの地下室で、たっぷりと時間をかけて行えばいい」


 エリオットの言葉に岬は小さく頷いた。


 例の地下室には、まだ空席がある。一つ目の席には、既に半死半生の水戸茂が拘束されている。二つ目の席には古河の側近の鶴ヶ島。三つ目の席は古河達哉が、これから座ることになる。


 奴らの精神をへし折る宴が幕を開ける時間まで、もうすぐ。

 あの地下室で、辱めて辱めて辱めて辱めて辱めて……精神を参らせてやる。


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