10-2 反撃の配信
同時刻。民自党本部ビルの二階にある来客用の応接室。
その無駄に豪奢なインテリアに彩られた部屋に、古河達哉は通されていた。今は彼以外に誰もいない。
「クソッ、どいつもこいつも……!」
彼は、いら立ちを隠さず、部屋の中央にあるソファに蹴りを入れた。
壁に掛けられた薄型テレビの画面は、どのチャンネルも無残に破壊された「新宿古河グラビティタワー」の映像を繰り返し流している。
『突如として新宿上空に現れた謎のヘリ部隊』
『ビル上層階は半壊、火災発生、死傷者多数』
『テロの可能性も視野に警視庁が捜査を開始』
『須磨総理、緊急事態宣言の発令を検討か』
ほんの数時間前まで、彼が王として君臨していた宮殿の成れの果てだ。
「俺の城が……。俺の築き上げた王国が滅茶苦茶じゃねえか!」
古河はギリギリと奥歯を噛みしめた。
怒りと恐怖で手の震えが止まらない。
あの時、突入してきた部隊は日本の警察や自衛隊ではなかった。ゴーグルを着け目元は隠れていたが、髪や肌の色、体格……どう見ても日本人ではない。
もっと容赦がなく、統率され洗練された組織的な暴力を行使していた。
加えて、そのシステマチックな暴力組織の中心にいた女。
――滝乃川岬。
高校時代に虫けらのように扱っていた地味で陰気な女。卒業以来、完全に忘れていた存在だった。
それが、何故。
どうやって、あの軍隊のような組織を動かす力を手に入れたのか?
どうして、二千万円以上の大金をポンと出せるような身分になっているのか?
「訳が分かんねえ……! 何なんだよ、あの女は!」
元総理の岸波文男のコネで、この党本部には何とか逃げ込めた。しかし、岸波の秘書からは「しばらく大人しくしていろ。外部との連絡は一切絶て」と厳命されている。
もはや腫れ物扱いだ。
古河は、ポケットからスマートフォンを取り出した。
スマホだけは失くさないよう、常に肌身離さず持っていた。彼にとってスマホは命の次に大事な武器で、世界と繋がるための生命線だった。
SNSアプリを起動する。
タイムラインは新宿の事件の話題で埋め尽くされていた。
『ビル周辺に人多すぎでカオスw』
『ビルオーナーの古河達哉が行方不明だって』
『ざまぁwww インチキ銭ゲバ野郎に天罰だな』
『ボンボン詐欺師の末路』
画面をスクロールするたび、彼を嘲笑し罵倒する言葉が、とめどなく溢れ出してくる。
有象無象のモブども。
俺の養分になるしか能の無い、底辺のゴミカスどもが。
「……ざけんな」
低い呻き声が、古河の喉から漏れた。
こいつらは何も知らない。俺がどれだけ理不尽な暴力に襲われ、命がけで逃げ延びたかを。
被害者は俺だ。
俺の成功譚の結晶であるビルを襲撃し、俺の金づるである信者たちを殺し、俺の支配構造を壊そうとするテロリスト連中と滝乃川岬こそ、断罪されるべき悪なのだ。
ふと、古河の脳裏に逆転の一手となるアイデアが舞い降りた。
唇の端が三日月のように歪に吊り上がる。
(そうだ……!)
俺には、このスマホがある。ネットという最強の武器がある。
マスメディアが報じない事件の「真実」を、俺自身の言葉で全世界に向けて発信するのだ。




