9-6 脱兎のごとく逃げるボス
古河達哉も、この常軌を逸した事態を目の前にして、さすがに狼狽していた。
「……な、なんだってんだよ、これ……軍隊か!?どこのだ!」
彼は、つい掴んでいた岬の腕を思わず放してしまい、壁側へと後ずさった。
この隙を岬は見逃さなかった。
即座に床を転がり、古河から距離を取る。
古河のガード役となる屈強な側近たちが、懐からスタンガンや拳銃らしきものを取り出し、突入してきた特殊部隊に応戦しようとした。
「古河様!早くお逃げください!」
「俺が許す!侵入者どもを撃て!撃ち殺せ!」
しかし、彼らが反撃するよりも早く、特殊部隊員が構えたサブマシンガンの連射音が、カオスと化した会場の空気を切り裂いた。
側近たちは、なす術なく体中から血飛沫を上げ、声もなく倒れていった。
「ひぃっ……!」
目の前で、己の私兵が射殺されたという現実に、古河の顔が恐怖に引きつった。
彼は、既に岬を拉致することなど、頭から消え失せていた。
願いは生き延びること。それだけ。
「滝乃川ァ!お前、一体何者なんだよっ!」
古河は、岬の逃げた方に向かって、最後の捨て台詞を吐き捨てると、特殊部隊の銃撃を避けるように、ステージ上の床に隠されていたハッチへと転がり込んだ。
彼だけが知る専用の隠しエレベーター。
あっという間に、古河の姿が暗闇の中へと降りて消えていく。
「こうなったからには……絶対に逃がさない」
岬は歯噛みしながら、力強く拳を握りしめた。




