9-4 エマージェンシー・コール
「さてと」
古河達哉は、凍りついた岬と困惑する信者たちを見渡し、おもむろにマイクで告げた。
「悪いな、ファミリーの諸君! どうやら、俺たちのパーティーに噓つきなネズミが紛れ込んでいたみてえだ!」
彼は岬の腕を乱暴に掴んだ。
「余興はここまで!この後、俺はコイツと同窓会だ。お前らはオフ会を続けてくれ!」
古河が壇上でマイクのスイッチをオフにする。
同時に、屈強な最側近の男たち数名がステージに上がり、逃げ場を塞ぐように岬を取り囲んだ。
「……!」
『岬様!』
インカム越しに、広尾の切羽詰まった声が響く。
「どうも臭えと思ってたんだよ」
古河は掴んだ岬の腕に、爪が食い込むほど強く力を込めながら、憎悪に満ちた声で吐き捨てた。
「まさか、お前だったとはな。ずっと社会の底辺で、大人しく這いずり回ってりゃよかったのによ!」
彼は岬の顔を覗き込み、これ以上ない下品な笑みを浮かべる。
「よほど、俺のことが忘れられなかったみたいだな。いいぜ、別室で『ペット』として、たっぷり可愛がってやるよ……」
絶体絶命。
最側近の男たちが岬の口と右腕を掴んだまま、ステージ裏の隠し通路へと引きずっていこうとする。
信者たちは、何が起きているのかよく分からず、ただ呆然とショーの余興の幕引きを見守っている。
もはや、迷っている猶予は一秒たりともなかった。
岬は、掴まれた腕とは逆の手――左手を、スウェットのポケットに深く差し込んだ。
そして、薬指にはめられた指輪の冷たい感触を確認する。
(エリオット……!)
センターストーンに偽装されたボタンを、祈る思いで力強く長押しした。
三秒間の長押し。それは緊急呼び出しの合図。
その時間は、永遠のように長く感じられた。
岬は、自分を引きずろうとする古河の顔を真っ直ぐに睨みつけた。
その瞳に恐怖の色はない。今、この時も復讐の炎が宿っている。
決して消えることのない、地獄の底から湧き上がるような冷徹な怒りは健在だった。
あとは、エリオットと世界最強国家の力が、一刻も早く届くことを信じるだけだ。




