8-5 カリスマ登場
巨大スクリーンに電源が入る。
最初に映し出されたのは、悪趣味なピエロの仮面を模した例のロゴだった。
やがて、ロゴがゆっくりとフェードアウトしていくと、次に現れたのは、書斎の豪華な椅子にふんぞり返る男の姿だった。
古河達哉。
ビデオメッセージではあったが、数多の人間を統べる者としての存在感は圧倒的だった。
高校時代と何も変わらない、人を小馬鹿にしたような自信過剰な笑み。
「よぉ! 俺の『選ばれしファミリー』たち! 集まってくれて、マジでサンキューな!」
古河が、画面の向こうから手を振る。
その瞬間、暗かった会場に爆発するような大歓声と熱狂的な拍手が巻き起こった。
「古河様ー!」
「待ってましたー!」
Sランク信者もBランク信者も関係なく、同様の歓喜ぶりだった。
鶴ヶ島でさえ、岬の肩から慌てて腕を外し、スクリーンの古河に向かって、まるで神を崇めるかのように恍惚とした拍手を始めた。
「いやー、今日は残念ながら、忙しくてそっちに行けなかったんだけどさ」
古河は、芝居がかった仕草で肩をすくめた。
「お前らみたいな、俺を本気で支えてくれる上級メンバーだけが集まる、この特別なオフ会! 楽しんでいってくれよな!」
古河の煽情的な言葉に、信者たちは再び「うおおお!」と喝采を上げる。
その時、岬の耳の奥でインカムが静かに作動した。
『ミサキ、ショーの始まりだ。だが、奴の言葉に惑わされるな。これは、いわば洗脳イベントのようなものだ』
エリオットの冷静な声が伝わる。
岬だけが、その熱狂の渦の中で一人、冷え切った瞳でスクリーンを見つめ、得意げに喋り続ける古河達哉の顔を睨みつけた。
オフ会の幕が、今ここに切って落とされた。
同時刻、新宿古河グラビティタワーの最上階にある一室。
古河はポルトローナ・フラウの最高級レザーソファに寝ころび、オフ会会場の映像を、壁一面を占める巨大モニターで視聴していた。
会場の至る所に設置されているカメラで、参加者の一挙手一投足まで間近で観察できる。
彼が、最も気になっているのは『ブラッディマリー33』こと、荒川未沙。
彼女が何者なのかを見極め、どう扱うかを決めねばならない。
古河は、アップで映された荒川未沙の顔をじっと見つめていた。
(この女、どこかで見たような……?)
傍に控えていた最側近の男が尋ねた。
「やはり、気になりますか? 荒川未沙が」
古河は、その問いには答えず、画面から目を離さずに呟き始めた。
「俺はガキの頃から、政治家の親父や伯父に連れられて、色んな人間を見てきた。不思議と物心がついた頃には、人の顔を一目見れば二度と忘れない能力が身についていた。この力は、多くの信者を獲得して、俺の王国を築くのにも役立った」
最側近の男は、沈黙したまま古河の話に耳を傾けている。
「そんな俺の目と記憶が、荒川未沙を以前から知っていると告げている。コイツは……」
数十秒間、古河は目を閉じて虚空を見つめていた。それは、彼が深い思考の海に潜る時のルーティンだった。
やがて、彼は目を開き、最側近の男に告げた。
「……分かったぞ。この女が誰なのか。俺は44階に行く。サプライズゲストとしてな!」




