8-4 口の軽すぎる男
「ねえ、鶴ヶ島さん」
岬は、鶴ヶ島の腕の中で、話題を本題へと切り替えた。
「私、コガコインは本当にすごいと思ってて!Sランクの鶴ヶ島さんはコガコインで、どれくらい儲けてるんですか?」
「おっと」鶴ヶ島は、わざとらしく人差し指を立てた。
「そいつはトップシークレットだ。古河様との信頼関係だからね」
「えー、ケチぃ。教えてくれたっていいじゃないですかぁ」
岬が、子供のように唇を尖らせてみせると、鶴ヶ島は、自慢したくてたまらないといった顔で声を潜めた。
「……まあ、ブラマリちゃんだから、特別に教えてやるけどさ」
「うんうん!」
「俺は、初期から古河様に全力で資産ベットしてたからね。コガコインだけで、とっくに君が住んでるようなタワマンの一室くらいは、軽く買えちゃってるかな」
(タワマンの一室……)
(こいつ、私がタワマンに住んでいると勝手に思い込んでる)
岬は、内心でほくそ笑んだ。
「すごーい! やっぱり、コガコインって、絶対に儲かるんですね!」
「当たり前だろ。古河様は投資の天才なんだから。俺たちSランクは、古河様が、どこから極秘の投資情報を仕入れてるのかも知ってるしね」
「え、何それ!知りたい!」
「まあまあ、焦んなって」
鶴ヶ島は下卑た笑みを浮かべた。
「Sランクに昇格して、さらに古河様の側近中の側近になれば、古河様からコガコインよりもリターンが得られる特別な投資話も紹介してもらえるんだぜ?」
「特別……?」
「そう。一般信者には絶対に教えない、ヤバい話がね」
(……これだ)
ランク側近だけが知る投資話。
それこそが、古河達哉の詐欺システムの核心であり、伯父である岸波文男の政治資金にも繋がっている詐欺の源に違いない。
Sランク信者である鶴ヶ島の口の軽さは、岬の想像以上だった。
「どうすれば、私も、その特別なお話を聞かせてもらえるんですかぁ?」
岬が徹底的にカモを演じて身を乗り出すと、鶴ヶ島は喜びの表情を隠さずに頷いた。
彼は岬の耳元に、さらに顔を近づけ、熱い息を吹きかけるように囁いた。
「簡単だよ。このオフ会が終わった後、俺のタワマンに来ないかい? 二人きりで、ゆっくり投資の勉強と……、お互いのことを、ゆっくりじっくりと、深く学び合おうじゃないか」
(よし、かかった)
岬は、心の中で快哉を叫んだ。
(お前の行き先はタワマンじゃない。大使館の地下部屋よ)
だが、その本心は微塵も見せずに、荒川未沙を演じ続ける。
「えー、どうしよっかなぁ。鶴ヶ島さんって、信用できる人ぉ?」
あからさまに焦らすように。
鶴ヶ島が、さらに何かを言おうとした、その時。
突然、ドン!という重低音が響き、会場の照明が暗転した。
BGMが止み、それまでざわついていた信者たちの話し声もピタリと止む。
全員の視線が、会場の正面に設置された巨大なスクリーンへと一斉に集まった。




