表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/134

1-6 正義の時間を始めよう

「……え?」


 岬は自分の耳を疑った。今、この人は何と言った?


 エリオットも少し驚いた顔をしたが、すぐに父の意図を察し、静かに頷いた。


『もちろん、形式上の話だ。法的な手続きを踏み、君を私の養女として迎える。そうすれば、君は大統領の家族として、我が国の最高レベルの保護対象となる。世界中のどの組織も個人も、君に指一本触れることはできなくなる。それは私が保証する』


 それは、あまりにも突飛で非現実的で、あまりにも魅力的な提案だった。


 最高の保護。

 誰も、指一本触れられない。


 それは、岬がこれまでの人生で、ずっと求め続けてきたものだった。

 いじめから守ってくれる力。

 パワハラやセクハラを跳ね除ける力。

 モラハラやDVから逃れるための、絶対的な盾。


『君は、ただ守られるだけじゃない』

 ガブリエルの声が、岬の心に直接響いてくる。

『私の娘になるということは、ハルフォード家のリソース……人脈、情報、諜報機関、そして時には軍隊さえも動かす“力”へのアクセス権を、君が手にすることを意味する』


 彼は続けた。その言葉は、岬の心の奥底に眠っていた、復讐という名の獣を、ゆっくりと揺り起こしていく。


『国家は、個人のための私刑はしない。法治国家として、それは絶対に許されないことだ。……だが、我が国は、いち国民である“あなた”の正当な権利が、最大限に行使されることを全力でサポートする。君がこれまで受けてきた理不尽な仕打ちに対して、法と正義の枠組みの中で、最大限の、そして最も効果的な“報い”を与える手伝いをしよう』


 報い。

 その言葉が、岬の心の中で燻っていた小さな火種に、大量のガソリンを注ぎ始める。


 水戸課長の、人を侮蔑しきった顔が浮かぶ。

 古河達哉の、嘲笑う顔が浮かぶ。

 平泉潤二郎の、優しい仮面の下の、冷酷な顔が浮かぶ。


 彼らに報いを。

 私が味わった苦しみを、絶望を、屈辱を。これまでの人生分の利子をつけて、百倍にして返してやる。


 もう、泣き寝入りはしない。

「どうでもいい」と自分に嘘をついて、心を殺すのはやめる。


 岬は震える唇をきつく結び、顔を上げた。バスローブの袖で涙の跡を乱暴に拭う。その瞳には、先ほどまでの怯えの色は、もうどこにもなかった。あるのは、硬質で燃えるような決意の炎だった。


「……お受けします」


 はっきりと、そう告げた。

 これから新しい自分に生まれ変わる。

 その声に、もう震えは無かった。


「その代わり、一つ条件があります」

『ほう、言ってみなさい』


 ガブリエルが、面白そうに目を細める。


「私の復讐は、白日の下に晒して行います。密室での取引や裏工作はしない。彼らが私にした理不尽、その全てを公の場で明らかにし、証拠を突きつけ、彼らが最も大切にしている社会的地位や名誉、プライドを、世界中の人々が見ている前で、ズタズタに破壊する。完全に逃げ道をふさぎ、社会的な死を与えるんです」


 岬は宣言した。

 これは私の戦いだと。

 そして、その結末は、世界中が見届けることになるのだと。


「晒します。——復讐は公開でやる」


 その言葉を聞いて、ガブリエル・ハルフォードは、心の底から満足そうに深く頷いた。画面の向こうで、彼は不敵な笑みを浮かべている。それは、これから始まる史上最高の“ショー”を心待ちにしている、最高の演出家の顔だった。


『面白い! 気に入った! それでこそ私の娘だ!』


 彼は高らかに声を上げた。その声は、雷鳴のように部屋中に響き渡った。


『 It's time for justice! 』(さあ、正義の時間だ!)


 その言葉が、新生・滝乃川岬による壮大な復讐劇の号砲となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ