6-8 上級オフ会への招待
Bランク専用チャンネルは、Cランクが集う「暴露祭り」チャンネルとは、明らかに空気が違った。
チャットの流れは、Cランクチャンネルよりもずっと遅い。
だが、そこに書き込まれる内容は、より濃密で、選民意識に満ちたものだった。
『Sランク(側近):ブラッディマリー33さん、Bランクへようこそ』
『ブラッディマリー33:ご招待、ありがとうございます! 光栄です!』
『ユーザーA(Aランク):おー、ブラマリさん、マジですげかったわ。一気にごぼう抜きじゃん』
『ユーザーB(Bランク):マジリスペクトっす』
チャットルームに参加していたのは、一般信者のCランクとは違う、古参のBランク、そしてAランクの信者たちだった。
彼らは、『ブラッディマリー33』を、金払いの良さでランクを飛び級してきた「成り上がり者」として、好奇と、わずかな嫉妬の目で見ている。
だが、それ以上に、「これほどの金持ちを味方につければ、古河様の活動がさらに大きくなる」という、奇妙な連帯感のようなものも感じられた。
岬は、ここでも「古河様に心酔する、無知な金持ち」を演じ続けた。
『ブラッディマリー33:皆さんは、古河様とは長いんですか? いろいろ教えてください!』
『ユーザーA(Aランク):まあな。俺は、古河様がまだ登録者1万人の頃から支えてるし。』
『ユーザーB(Bランク):コガコインも、初期から買ってる古参なんでw』
岬は、彼らの自尊心をくすぐりながら、巧みに情報を引き出していく。
コガコインの初期の配当率。
信者ランクが上がることのメリット(限定グッズがもらえる、Sランク主催のイベントに参加できる等)。
そして、古河達哉の「敵」と認定された者たちが、古河と彼らの手によって、いかにしてネット上から排除され、あるいは社会的地位を失ってきたかといった、その武勇伝の数々。
話が、一通り盛り上がったところで、Sランクの側近が、アナウンスを投稿した。
『Sランク(側近):さて、Bランク以上の諸君に、改めて連絡だ』
『Sランク(側近):今週末の日曜、都内某所で『Bランク以上限定オフ会』を開催する』
『Sランク(側近):残念ながら、古河様は超多忙のため、今回はご欠席だが、我々Sランクメンバーのほとんどが参加し、今後の『活動』についての重要な作戦会議も行う』
(きた……!)
岬の指が、キーボードの上で硬直する。
これだ。これが、潜入した最大の目的。
『Sランク(側近):もちろん、ブラッディマリー33さんも、Bランクメンバーとして参加資格がある。どうする?』
『ブラッディマリー33:参加します! ぜひ参加させてください!』
岬は、即座に食い気味な参加希望の返信を送った。
興奮で、心臓が少しだけ速くなるのを自覚する。
『Sランク(側近):OK。歓迎する。詳細は、後ほど個別にDMで送る。場所は都内。ただし、具体的な場所はセキュリティの関係上、当日の朝に連絡する』
『ブラッディマリー33:ありがとうございます! 皆様にお会いできるのを、楽しみにしています!』
岬は、『Myピカレスク』からログアウトした。
大きく息を吐く。
第一関門は突破した。
古河は来ないが、彼の懐刀であるSランクの側近たちと、直接接触できる。
彼らから、「コガコイン」の運営実態、その金の流れ、そして、伯父である岸波文男との具体的な繋がりについて、より具体的な情報を引き出す。
それが、上級信者限定オフ会における岬のミッションだった。
岬は、インカムをつけた。
「広尾さん、聞こえますか? オフ会への参加許可が下りました。今週末、日曜日。場所は当日連絡。……ええ、もちろん、護衛チームの皆さんのサポートをお願いします。それと……」
岬は、窓の外の暗い夜景を見つめながら、冷たく告げた。
「エリオットさんに伝えて。当日は、Sランクの信者を『お持ち帰り』する準備も必要になるかもしれない、と」




