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5-8 水戸家崩壊

 地下室の重い鉄の扉が、ゆっくりと閉ざされていく。水戸茂の虚ろな視線が次第に遠ざかり、闇の中に吸い込まれて消えた。

 部屋を立ち去る前に、エリオットは、SPの一人に「監視を続けろ。ただし、死なせるな」と短く命じた。


 岬、エリオット、もう一人のSPは、ひんやりとした地下通路を抜け、再び大使館の秘密通路を通ってウォー・ルームへと戻る。先ほどまでいた、暴力と絶望が支配するコンクリートの小部屋とは別世界の、静かな緊張感と無数の情報が飛び交う、世界の最先端のような空間。


「お疲れ様、ミサキ。見事な采配だった」

 エリオットは、司令官席に戻る岬をねぎらった。

「ここで、水戸とその家族、そして星霜フロンティア社の行く末を監視しながら、次のターゲットへの作戦を詰めよう」

「はい」

 岬は短く応じ、自分の席に深く腰を下ろした。


 巨大モニターはすでに切り替わり、メイン画面には、ストップ安のまま張り付いている星霜フロンティア社の株価チャートが、そして隅のウィンドウには、地下室でぐったりと項垂れている水戸と、水戸の自宅前のライブ映像が映し出されていた。


 その時、水戸の自宅前映像に動きがあった。

 沈黙していた家の玄関が開かれ、二人の女性が出てきた。大きなキャリーバッグを必死に引いている。水戸の妻と、高校生くらいの娘だろう。


 その瞬間、待機していたマスコミの集団が、血の匂いを嗅ぎつけたサメのように、一斉に二人に殺到した。

「奥さん! ご主人はどこに!?」「横領について何か知っていたんですか!?」「盗撮の事実は!?」「ひと言お願いします!」


 マイクとカメラが、容赦なく二人の顔に突きつけられる。フラッシュが、二人の全身を白く照らし出す。

 娘は、すでに泣き崩れそうになるのを必死に耐え、母親にしがみついている。

 その母親は、絶望と怒りで顔を歪ませ、鬼のような形相で報道陣を押しのけ、呼んでいたタクシーへと突き進んでいく。

「どいてください!」


 タクシーのドアに手をかけ、乗り込む直前。一人の記者が、執拗にマイクを突きつけ問いかけた。

「ご主人を見捨てるんですか!?」


 その言葉に、妻の何かが切れた。

 彼女は、周囲のカメラに向かって、振り絞るように絶叫した。

「離婚します! あの人は、もう主人ではありません! 軽蔑すべき、ただの犯罪者です!」


 娘のすすり泣く声が、マイクに拾われる。

 二人を乗せたタクシーは、無数のカメラと野次馬の中を振り切るように、強引に発進していった。


 岬は、その様子を、瞬きもせず無表情で見つめていた。


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