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3-6 精神攻撃は基本

 全ての証拠を目の当たりにし、岬の中で渦巻いていた怒りは、いつしか奇妙なほどの冷静さに変わっていた。

 これからは、冷徹な計算の時間だ。

 どうすれば、水戸茂という男に、最大級の苦痛と絶望を与えることができるか。


 ただ会社をクビにするだけでは、足りない。

 ただ罪を償わせるだけでも、足りない。

 奴が今まで築き上げてきたもの、奴が拠り所にしてきたもの、その全てを、奴の目の前で叩き壊してやる。


 岬は、ゆっくりと顔を上げた。


「まず、彼を精神的に追い詰めます」

 はっきりとした声で、岬は言った。

「いきなり全てのカードを切るのではなく、少しずつ、情報を小出しにしていく。何が起きているのか分からない恐怖。誰が自分を陥れようとしているのか分からない疑心暗鬼。その中で、彼が自分でミスを犯し、墓穴を掘っていくように仕向けるんです」


 その言葉に、エリオットの口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。

「……面白い。具体的なプランは?」


「はい。まず第一段階として、彼の『聖域』を侵します」

 岬は、テーブルスクリーンに映し出された、水戸の愛人の写真を指さした。

「この女性……彼の愛人ですね。彼は、会社の金を横領してまで、この女性との関係を維持している。それはつまり、この関係が、彼のプライドや、男としての自信の源泉になっているということです。まずは、ここを徹底的に破壊します」


「ほう。どうやって?」

 広尾が興味深そうに問いかける。


「噂を流すんです。ただし、社内ではありません。彼らの行動範囲……彼らがよく利用する飲食店や彼女が働く銀座のクラブ。その周辺に、ごく自然な形で」

 岬の頭脳は、恐ろしいほどの速度で回転していた。広報の仕事で培った、情報の流れを読むスキルが、今、復讐のための戦略へと変換されていく。


「噂の内容は、こうです。『星霜フロンティアの水戸という課長は、会社の金に手をつけて、銀座の女に貢いでるらしい』。そして、もう一つ。『あの女、水戸以外にも太いパトロンが何人もいて、乗り換えを考えてるらしい』と」

「……なるほど。内側と外側、両方から同時に火を点けるわけですか」

 広尾が、感心したように頷いた。


「はい。水戸は、横領が外部に漏れているという事実に、まず恐怖を覚えるでしょう。同時に、自分の愛人が、裏では自分を裏切っているかもしれないという疑念に苛まれる。彼はプライドが高い人間です。金と地位で女を繋ぎ止めているという自負がある。その根幹を揺さぶられれば、必ず冷静さを失うはずです」


「素晴らしい」

 エリオットが、手を軽く叩いた。

「実にクレバーだ。直接的ではなく、心理的な揺さぶりから入り、精神的に追い詰めていく。彼の性格をよく理解している、君ならではの作戦だね」


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