表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/57

3-3 世論操作は君のため

 エリオットは岬を、司令室の中央にある、巨大な円卓テーブルへと導いた。


「本題に入る前に、一つ報告しておきたいことがある」

 エリオットはそう言うと、テーブルのスクリーンに指で触れた。すると、壁の巨大モニターの一つに、昨日のニュース映像が映し出された。渋谷の交差点、パニックに陥る人々、そして「偶然の彼女」というテロップ。


「君の話題だよ。昨夜の時点では、ネットもマスメディアも、この話題で持ちきりだった。君を英雄視する声、正体を暴こうとする動き、様々な情報が錯綜していた」

「……はい。少しだけ見ました」

「注目されることは、君の『復讐の公開性』というルールにおいては有利に働くだろう。だが、現段階で君個人にスポットライトが当たりすぎるのは、得策ではない」


 エリオットの目が、鋭く光る。

「君という切り札は、最高のタイミングで、最も効果的な形で切るべきだ。今はまだ、世間の下世話な好奇の目に君を晒し続けるべきではない。何より、君の安全が最優先だからね。犯人グループが、君の存在をどう捉えているか、まだ分析が終わっていないから」


 彼の言葉は、岬の身を案じる優しさと、戦局を冷静に見極める司令官としての冷徹さが同居していた。


「それで、どうしたんですか?」

「簡単なことさ。もっと大きなニュースで上書きした」

 エリオットは、こともなげに言った。彼が再びスクリーンを操作すると、モニターの映像が切り替わった。映し出されたのは、日本の人気俳優が、薬物所持の疑いで警察に逮捕されたという、衝撃的な速報ニュースだった。


「……え!?」

 岬は、思わず声を上げた。昨日まで、そんなニュースは影も形もなかったはずだ。

「このネタは、我々が懇意にしているメディアに、今朝方リークしておいた。もちろん、確固たる証拠を添えてね。我々が温存してきた、数あるカードの中の一枚さ。おかげで、今朝の話題は、完全にこちらに移っている。“偶然の彼女”のニュースが、過去のゴシップ扱いになるのは時間の問題だろう」


 岬は、呆然としてモニターを見つめていた。

 世論など、彼らの手にかかれば、いとも簡単に操作できてしまう。たった一つの情報で、大衆の関心など、あっという間に別の方向へと誘導されてしまうのだ。その事実に、岬は改めて彼らの力の底知れなさを感じ、背筋に冷たいものが走った。


「安心していい。君の個人情報は、我々が鉄壁のガードで守っている。世間が君のことを忘れかけた頃、君は全く新しい形で、再び舞台に登場することになる」

 エリオットは、悪戯っぽく笑いながら言った。その笑顔に、岬は少しだけ救われたような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ