17-7 筋書きのある裁判と末路
「そのくらいにしよう、ミサキ」
エリオットが、そっと岬の肩を掴んで制止した。
岬は荒い息を吐きながら充血した瞳でエリオットを振り返る。
「離してください!こいつが……あの無法者の巣である会社を生んだんです!」
「分かっている。だが、君の復讐相手は平泉だ。こんな小物のために君の手を汚させるわけにはいかない」
エリオットの冷静な瞳に見つめられ、岬はようやく理性を取り戻した。
彼女は唇を悔しげに噛み締め、ずるずると後退る。
エリオットは身動き一つできなくなったドーンの胸倉を掴み、無理やり上体を起こさせた。
「正直に答えろ。平泉は今どこにいる?」
ドーンは焦点の定まらない目で首を振る。
「し、知らない……本当に知らないんだ……!」
「嘘を吐くな」
「嘘じゃない!信じてくれ!私は平泉と連れの女にパワードスーツと逃走用の車を与えただけだ!あいつらは直ぐ、ここを離れた。だから行き先までは聞いていない!」
ドーンは必死だった。
日本有数の企業トップだった男が、今はただ保身のために泣き喚いている。
「詳しくは後で取り調べるが……。もし嘘を吐いていたら、今後の貴様の安全は保証しないぞ」
エリオットの怒りが滲んだ声に、ドーンは首が千切れんばかりに頷いた。
「嘘じゃない!神に誓って本当だ!だから命は助けてくれ、頼む!」
その見苦しさに、エリオットは呆れてため息をついた。
彼は控えていたエージェントたちに顎でしゃくった。
「連行しろ」
命令一下、二人のエージェントがドーンを乱暴に引き起こす。
さらに今、入室してきた別のエージェントが特殊な拘束具を手にしていた。
それは手錠だけではない。視界を完全に遮断する黒いゴーグル型の目隠しと、外部の音を一切遮断する巨大なヘッドホンも抱えていた。
「待ってくれ。これはどういうことだ?今からどこへ連れて行く気だ!」
拘束具を装着されそうになり、ドーンは抵抗しようとする。
「カロル・ドーン。あなたを今からアメリア本国へ移送する。そしてアメリアに対し犯した罪は当地で裁く」
エリオットの宣告にドーンは顔面蒼白になった。
「そんなバカな!何で日本で裁判をしないんだ?ここは日本だぞ!?私の弁護士に会わせてくれ!日本の法で――」
ドーンの言葉を遮るように、エリオットは冷酷な事実を告げた。
「アメリアの裁判は日本と違ってスピーディーだ。つまり、それだけ君が死への恐怖に悩み怯える時間が短くなる。喜ばしいことじゃないか」
その言葉にドーンの喉から引きつった悲鳴が漏れる。
国家反逆者やテロリストと断ぜられたアメリア国の敵対者への裁き。それは、日本とは比べ物にならない迅速かつ冷徹な「処理」が適用されることを、ドーンは知っていた。
「い、いやだぁぁぁ!助けてくれぇぇぇ!」
エージェントたちに手錠とヘッドホンと目隠しを装着されても、ドーンの絶叫は止まらない。
「黙れ」
そう告げたエージェントの一人が、ドーンの腕に睡眠薬入りの注射を打った
即効性の睡眠薬にはドーンも抗えず、あっさりと沈黙した。
こうして、物言わぬ肉塊同然となった男は、エージェントたちによって部屋の外へと引きずり出されていった。
部屋に静寂が戻る。
エリオットはドーンが消えた扉の方を一瞥してから、岬に向き直った。
「やはり平泉は去っていた。追いかけよう」
岬は深く息を吸い込み、乱れた呼吸と決意を整えて頷いた。




