17-5 狩られる男の命乞い
一行は、地下通路の最奥にある重厚な扉の前で足を止めた。
既に先行していた二名の屈強なエージェントが、扉の両脇を固めている。彼らはエリオットの姿を認めると、無言で敬礼した。
エージェントたちは、ここにエリオットが到着する前にセキュリティシステムをハッキングし、扉のロックを解除していた。彼らの手によって扉がゆっくりと開けられる。
「ご苦労」
エリオットは小声で労いの言葉をかけ、室内の様子を窺うようにエージェントたちに続いて慎重に足を踏み入れた。
岬もすぐ後ろに続いて部屋に入る。
内部は一見するとシェルターとして作られた殺風景な部屋。だが、ここにはドーンの様々な趣味の品々が持ち込まれており、シェルターとは思えない混沌とした雰囲気が漂っている。
ワインセラーがあり、豪華なオーディオ一式があり、床にはペルシャ絨毯が敷かれている。
この室内のどこかに、きっといる。
平泉潤二郎の凶行に手を貸した外道が。
先行していたエージェントの一人が、部屋の奥隅の方向を指差した。
そこには壁際に立てかけられた黒く巨大な楽器ケースがあった。おそらくコントラバスかチェロを収納するためのハードケース。だとしても、過剰に大きいが。
エリオットは頷き返し、岬に向けて人差し指を口元に当てた。
――喋らないで。
そのサインに彼女は黙って頷いた。心臓の鼓動が早まる。
エリオットは足音を完全に消し、滑るような足取りで楽器ケースへと近づく。
当然、楽器ケースは微動だにせず沈黙を保っている。
しかし、エリオットは確信を持ってその前に立った。
次の瞬間。エリオットの右足が勢いよく空を切り裂く。
ドゴッ!
鈍く重い打撃音が室内に響き渡る。
彼は一切の躊躇なく、楽器ケースの側面を思い切り蹴りつけたのだ。
「ギャアアアア!!」
楽器ケースの中から男の悲鳴が漏れた。
蹴りの衝撃によって巨大なケースは部屋の中央側へと無様に倒れ込む。床に叩きつけられた衝撃で留め金が外れ、ケースの蓋がパカリと開いた。
そこから転がり出てきたのは、みすぼらしい小男だった。
スーツは皺だらけ。顔は恐怖にまみれ脂汗でベトベト。さらに乱れた白髪は彼の混乱ぶりを物語っていた。
カロル・ドーン。
これまで安全な場所から人の命が狩られるのを観覧していた男が、今や自分が狩られる側となり、青ざめた顔で震えている。
「ひぃっ……!殺さないでくれ!金なら払う!いくらでも払うからぁ!」
恥も外聞も無く、床を這いつくばって命乞いをする男の姿に、岬もエリオットも汚物を見るような視線を突き刺した。




