17-4 コンクリ色の巣穴
アメリア大統領専用ヘリ『マリーン・ゼロ』の機体が、カロル・ドーン邸の広大な庭園へと降り立った。
計算された美しさを誇っていた英国風の庭園は、今や見る影もない。そこにあるのは無残に焼け焦げ、黒煙を上げる残骸と傷み変色した芝生だけだった。
ローターの回転が緩やかになる中、エリオットは向かいに座っている岬に視線を送った。
「ミサキ、大丈夫か?辛いようなら、ここで待っていてもいい」
その言葉には岬の精神状態への配慮が滲んでいた。親友を失った直後で疲弊しきっている人間を、復讐相手の共犯者に会わせるのも酷だろうと彼は考えたからだ。
だが、岬はゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。私もカロル・ドーンに訊きたいことがあります。一緒に行きます」
岬の声は低く、揺らぎがなかった。
エリオットは一瞬だけ瞳を細め、それから短く頷いた。
「分かった。行こう」
二人は着陸したヘリのキャビンから地上へと降り立った。
鼻を突くのは硝煙と灰の臭い。岬はその臭いを思い切り吸い込み、あえて自身の中心にある怒りの火種を煽った。
黒く染まった庭園を、二人は屋敷に向かって一直線に進む。
岬の足取りは不思議なほど軽かった。千景を死に追いやった元凶の一人が、この先にいる。その事実が彼女の体を突き動かしていた。
エリオットは歩きながら小型の携帯無線機を取り出し、先行して邸内を制圧しているDIAエージェントに連絡を入れた。
「ターゲットは?」
『巣穴の中で動かなくなっています。観念して逃亡を諦めたのか、あるいは隠れているつもりなのか……いずれにせよ袋の鼠です』
「分かった。すぐに向かう」
エリオットは短く告げると無線を切った。
彼の歩速が上がる。それに呼応するように背後に続く岬の足も自然と速まった。
二人の靴音が、焼けた土の上で乾いたリズムを刻む。
屋敷の入口と一階は、既に突入部隊によって安全が確保されていた。
邸内に入り、一階の大広間を通過して長い廊下を一直線に進む。
すると廊下の床の一部に穴が開いている箇所があった。
その穴はDIAエージェントたちが、事前に特定済だった地下への入口を力ずくで突破した痕跡だった。
薄暗い穴の中に見える階段が、地下へと続いている。
「足元に気をつけて」
エリオットがハンドライトを点灯させ、先に足を踏み入れた。
岬も後に続く。
地下に降りると、そこにはコンクリート打ちっ放しの無機質な通路が長く続いていた。
一階で合流した護衛のエージェント数名が加わり、岬たち一行は迷いなく奥へと進んでいく。ドーンの潜む部屋は既に検知済みだ。
通路を歩く最中、エリオットは前を向いたまま、岬に問いかけた。
「ミサキ。君はカロル・ドーンと面識があるのか?」
先ほどの岬の言葉が引っかかっていたのだろう。岬はドーンに訊きたいことがあると言っていた。
岬は視線を前方の一点に固定したまま答える。
「いいえ。直接会うのは初めてです。しかし……私が勤めていた星霜フロンティア社の社長とは、関わりがある男なんです」
エリオットの眉がわずかに動く。
それは彼にとって初めて知る情報だった。
立産自動車と星霜フロンティア。資本関係や事業上の繋がりは無いはずだ。
だが岬の言葉は、二社の間に何らかの暗い糸が繋がっていることを示唆していた。




