2-7 処刑人からのGOサイン
スケールが大きすぎる。
「ほ、本当に、ここまでやるんですか……?」
思わず、声が震えた。
しがない中間管理職を一人、社会的に抹殺するためだけに。こんな戦争のような準備を。
私の戸惑いを察したのか、スクリーンの中のエリオットは真摯な表情で、私を見つめた。
「ミサキ。君が受けた理不尽は、決して小さなものではない。それは、人間の尊厳を踏みにじるという最も醜悪な罪だ。そして、その罪を犯した者が、何の罰も受けずにのうのうと生きている。そんな不正義を見過ごしてはならない」
彼の深い青色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。
「これは、君の尊厳を取り戻すための“正義の戦争”だ。そして、その戦いにおいて、我々はあらゆるリソースを提供することを約束する。君はただ、司令塔として進むべき道を示すだけでいい。君のルールで、君の正義を貫けばいいんだ」
エリオットの言葉は、単なる慰めや励ましではなかった。それは、同じ高さの目線に立つ者からの力強い誓いだった。彼は私を、守られるべきか弱い存在としてではなく、共に戦うべきパートナーとして認めてくれている。
ふと、彼の口癖が、私の胸に深く響いた。
――君のルールで、いこう。
そうだ。これは私の戦いだ。
私がルールブックであり、私が裁判官であり、私が処刑人だ。
腹の底から、力が湧き上がってくるのを感じた。恐怖も、戸惑いも、今はもうない。あるのは、これから始まる戦いを前にした、戦士の高揚感だけだ。
私は顔を上げた。
司令室のスクリーンに映し出された、水戸課長の能天気な顔写真を見据えて、静かに、しかしはっきりと宣言した。
「第一目標、水戸茂。——完全なる社会的な死をもって、これを排除してください」
その言葉を合図にしたかのように、オペレーターの一人が、静かに報告した。
「DIAより入電。水戸の個人サーバーより、複数の女子社員に送られたセクハラメール、及び、経費の不正流用を示唆するデータを確認。証拠保全、完了しました」
私の最初の復讐が、今、静かに幕を開けた。
心の中で、あの男の顔を思い浮かべる。
聞こえるはずのない、彼の命乞いを想像する。
そして処刑人は、まだ見ぬ未来の彼に向かって、冷酷に、そっと告げた。
「——泣き言、楽しみにしています」




