17-2 ブラックアウト・シティ
午前六時。
横須賀市を管轄区域に含む変電所のコントロールルーム。
当直職員たちは、突如送られてきた「内閣総理大臣命令」という極秘ファックスを前に騒然となっていた。
そこには非常時ですら紙でやり取りする、旧態依然とした文化が厳然と存在していた。
「おい、これ本物かよ!?全域停電だってよ!」
「緊急保安命令だそうです。テロ対策の一環として通信網の遮断テストも兼ねていると……」
「バカな!予告なしかよ!信号機も止まるんだぞ!事故が起きたら誰が責任を取るんだ!」
所長の男は震える手で緊急用の通話機――官邸とのホットラインを握りしめていた。
受話器の向こうから、内閣情報官が冷徹な声で実行を迫ってくる。
「分かりました。やります。やればいいんでしょ!」
所長は半ばヤケクソ気味に叫ぶと、職員たちに向かって怒号を飛ばした。
「3、2、1……系統遮断!」
職員がメインコンソールのスイッチを操作する。
その瞬間、メインモニターに表示されていた市内の電力供給を示す緑色のランプが、次々と赤色に変わり、やがて全てが消灯した。
◇
突然に光と音が奪われた早朝の街に、異様な光景が広がる。
コンビニの明かりが、街灯が、信号機の灯火が、一斉に消失した。
早朝のニュースを流していたテレビの映像はプツリと切れ、冷蔵庫の稼働音が止む。
横須賀市の通信基地局は全て停止させられ、アメリアが所有する人工衛星を経由した通信も止められた。
市内では、誰のスマホを見ても「圏外」の文字。
インターネットも使用できない。
市内の道路では、信号が消えたことに気づくのが遅れた車両が、交差点で激しいブレーキ音を響かせ、あちこちで衝突事故を起こしていた。
港に停泊していた船からは、非常用のサイレンが鳴り響く。
ただならぬ事態に、多くの人々は家から飛び出した。
しかし、そこには普段と変わらない景色が広がっている。
違いといえば、街から明かりと通信手段が消えた点だけ。
誰もが状況を理解できず、連絡も取り合えず、不安と恐怖に包まれていく。




