16-13 親友爆散
『レ・グラン』の巨体が、軋んだ駆動音を響かせて動き出した。
来た道を戻るように坂を下り、勢いをつけて再び駆け上がる。
その動きは、まるで助走をつけて空中の『マリーン・ゼロ』へ飛びかかろうとしているようだった。
「……間もなくだ」
『マリーン・ゼロ』の機内で、エリオット・ハルフォードが短く告げた。
その声音には司令官としての冷静さと、岬の親友に対する攻撃という苦渋が入り混じっていた。
「え?」
岬がエリオットの視線を追う。
彼が指さした海の方向から、白い航跡を引いて迫るひとつの影があった。
機内のモニターに拡大された映像が表示される。
海面スレスレを低空飛行で疾走する飛翔体。
そのミサイルは『レ・グラン』が戦闘ヘリを撃墜したと同時に、横須賀基地に停泊していたアメリア海軍のイージス艦から発射された報復の一撃だった。
「待ってください!エリオットさん!ちゃんと話せば彼女も……!」
岬はエリオットの両肩を掴み、泣きながら揺さぶった。
だが、エリオットは何も答えない。
ただ、悲痛な面持ちで、窓外の残酷な現実を見据えているだけだった。
『グルヴェイグ』を破壊された。
一方的にやられたままでは、アメリアという国の沽券に関わる。
相手が誰であれ、やられたらやり返すのが覇権国家の鉄則だ。
エリオット個人の感情だけで、成すべき報復を止めることはできない。
「間もなくミサイル着弾します!」
パイロットの報告にエリオットは返す。
「爆発の衝撃に備え、全機上昇して距離を取れ!地上部隊には急ぎ地下に退避するように伝えろ!」
エリオットの指示に即応した『マリーン・ゼロ』は、するすると上昇していく。
「どうして離れるの!待って!」
岬の泣き叫ぶ声は、ミサイルの轟音で空に散っていく。
地上では千景が『レ・グラン』を加速させていた。
ドリルの回転数を上げ、岬たちを叩き落とそうと上空を見上げていた。
しかし、なぜか『マリーン・ゼロ』や周囲の戦闘ヘリが一斉に空高く上っていく。
千景は、地上からの攻撃があるのではないかと直感し、AIに調べさせた。だが、その気配は無い。
再び上空のヘリの群れへと注意を向けた時だった。
視界の端に、レーダーに探知されにくくするために超低空を高速で突き進む物体が映り込んだ。
そして気づいた時には、機体が回避できない距離までミサイルは肉薄していた。
「えっ……?噓でしょ……?助けて潤二郎!早く……早く助けてよぉぉぉ!!」
一気に脳内の興奮が冷めた千景の口から絶望の悲鳴が散る。
彼女は裏切られたことを微塵も知らぬまま、最後に愛する男の名を絶叫する。
ミサイルが機体に接触する残り数メートルまで迫った時だった。
自爆装置の起動からジャスト一分。
紙一重の差で『レ・グラン』が先に爆発した。




