16-5 モーニング・ミサイル
ドーン邸の近くまで到達したヘリの編隊は、警戒しつつ一定の距離を保って空中でホバリングを開始する。ローターの風が眼下の木々を激しく揺らす。
エリオットは、地上に展開しているDIAエージェント達に無線で確認する。
「誰か正面玄関にいるか?」
『はい。既に配置についています』
ノイズ混じりの無線から日本語で返事があった。
さすがにネイティブのアメリア人がドーン邸の周りを大勢うろついていると目立ちすぎる。
最初の復讐相手である水戸を追い詰めた時と同様に、日本人のエージェントを配置しているようだ。
「まず家内に誰がいるか確認する。こちらに映像と音声はつなげたままにしろ」
エリオットの指示から数秒後、ヘリ内の大型モニターに映像が映し出された。
映像のアングルから見るに、正面玄関前のエージェントが装着しているボディカメラ映像のようだ。
画面には巨大で重厚な門扉が映っている。門の脇にはメカニカルなデザインのインターホンとカメラが設置されているのが見える。
「よし。正面玄関の呼び鈴を鳴らせ」
エリオットの合図で画面の中の手が伸び、呼び鈴のボタンを押した。
ピンポーンという、ありきたりな電子音が映像越しにヘリにも届く。
岬は息を呑んでモニターを見守った。
果たして、どんな反応が返ってくるのか。
数秒の沈黙が永遠のように長く感じられた。
『……はい』
インターホンのスピーカーから男の声が応答した。
低く落ち着いた声。しかし、どこか芝居がかったような声。
「カロル・ドーンか?私はエリオット・ハルフォードだ」
エリオットはヘリの中から無線を通じて直接語りかけた。
『これはこれは。随分と久しいな。早朝から、わざわざ我が家まで来られるとは光栄の極みだが、一体どんなご用かな?』
ドーンの声には微塵の焦りも感じられなかった。まるでエリオットたちが来訪することを知っていたかのような口ぶり。それどころか、この状況を楽しんでいるかのような余裕さえ漂っている。
「単刀直入に言う。平泉潤二郎および大洗千景の身柄を引き渡していただきたい」
『……断ると言ったら?』
「その場合はテロリスト幇助の容疑で、この屋敷を強制捜査することになる」
エリオットが告げるとインターホンの向こうで、ドーンが喉を鳴らして笑う気配がした。
『ここは日本だ。いくらアメリア大統領の息子である君でも独断で捜査やら逮捕やらをするのはマズいと思うがね。国際問題になる』
「それはあなたが心配することではない。答えたまえ。引き渡し、イエスかノーか」
『待ってくれ。先に総理や民自党と話をつけてくれ。彼らには私を守る義務があるんだ』
「我々に待つ義務はない。引き渡しに同意しないなら、我々はあなたが平泉らを匿っていると判断する。……やれ!」
エリオットはヘリのパイロットに向けて、合図の指を鳴らす。それは威嚇攻撃を開始せよというサインだった。
エリオットと岬が搭乗する『マリーン・ゼロ』から周囲の『グルヴェイグ』全機へと命令が伝わる。編隊は一斉に機首をドーンの屋敷に向け、攻撃用のフォーメーションへと変化する。
『おい、聞いているのか?早く撤収して総理に許可を……』
上空のヘリ部隊の動きに慌てたのか、ドーンの言葉に悲鳴に近いものが混じりだす。
『Fire!』
『グルヴェイグ』の一機から、空対地ミサイル「ヘヴンファイア」が発射された。




