表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/131

15-7 マリーン・ゼロ

 エリオットは驚きを隠さず、ウォー・ルームに入ってきた岬を見つめた。

 彼女は先程までの寝間着姿ではなく、動きやすい黒のパンツスーツに着替えている。その表情からは動揺や涙の痕跡は完全に拭い去られていた。


 広尾の死と親友の裏切り。その二重の衝撃に耐えきれず部屋で泣き崩れていた女性は、もういない。

 今の岬は揺るがぬ意志を持った『復讐者』だった。


「もう少し休んで欲しい。君はとても疲れているはずだ」


 エリオットは歩み寄り声をかけた。しかし、岬は短く首を横に振った。


「体調は問題ありません。それに、今の私に疲れたり悲しんでいる暇はありません」


 岬はメインスクリーンに視線を移し、問いかけた。


「千景は今どこに?」

「横須賀だ。今メインモニターに映っているカロル・ドーン邸に車で入ったのを確認している。先に地下道から逃げた平泉と落ち合っているかも知れない」


 モニターには衛星から捉えた映像が映し出されている。横須賀の海沿いに建つ巨大な屋敷だ。


「カロル・ドーン……大層な大物と繋がっていたんですね、平泉は」

「ああ。奴がドーンと通じていたのには驚いた。さらにドーンと同じような平泉の支援者が日本各地にいるなら、奴を追う我々にとって厄介な問題になるだろう」


「向こうも追われているのは自覚しているでしょうね」

「その通りだ。だから、仮に平泉と千景がドーン邸に寄ったとしても、長時間は滞在しないだろう。既に次の場所へ移動している可能性の方が高い。念のため、邸宅の周りをDIAに包囲させ、アメリア軍にも攻撃準備の指示を出したが」


 岬の瞳が鋭く細められた。

「横須賀に行かせてください。平泉を一秒でも早く捕まえたいんです」

「分かった。僕も一緒に行く」


 エリオットは即決した。

 彼は懐から通信端末を取り出し、短く命令を下す。


「『マリーン・ゼロ』を出せ」


 数分後。

 アメリア大使館の広大な日本庭園が、重低音とともに振動を始めた。

 手入れの行き届いた芝生が左右に真っ二つに割れ、巨大な地下格納庫への入口が開く。その暗闇の底から油圧式のエレベーターによって巨大な機体がせり上がってきた。


 世界に二機しか存在しない、大統領専用ヘリコプター『マリーン・ゼロ』だ。

 漆黒に塗装されたそのボディは、通常の軍用ヘリとは一線を画す重厚感を放っている。対空ミサイルに対する欺瞞装置(カウンターメジャー)はもちろん、核攻撃時の電磁パルスにも耐えうる装甲と通信設備を備えた、空飛ぶ司令室である。


 ローターが回転を始め、凄まじい風圧が周囲の木々を揺らす。

 エリオットのエスコートで岬はタラップを駆け上がった。

 機内に入ると、そこはヘリコプターの中とは思えないほど静寂な空間で、革張りのシートが向かい合わせに配置されていた。


「行くぞ。奴らがどこへどう逃げようと必ず捕まえる」


 エリオットが座り、シートベルトを締めながら告げる。

 岬とエリオットを乗せた『マリーン・ゼロ』は、夜明けの空を切り裂くように浮上した。その周囲を護衛するように、数機の攻撃ヘリ『グルヴェイグ』が追随し、編隊を組んで横須賀の方角へと機首を向ける。


 都心の街並みが眼下に広がり、やがて視界の端へと流れていく。

 しかし、岬はその絶景には目もくれず、向かう空の先にある標的だけを見据えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ