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15-5 パトロンが二人にくれたもの

 横須賀の海風が、夜明けの訪れを告げるかのように吹き抜けていく。

 小高い丘の上に建つカロル・ドーン邸の広大な敷地に、一台の黒塗りのセダンが滑り込んだ。

 ヘッドライトが消され、エンジン音が止んでドアが開く。


 助手席から降り立ったのは、大洗千景だった。

 都内からの追跡を逃れるため、平泉と彼の協力者が手配した複数の車を乗り継ぎ、ようやくこの場所にたどり着いたのだ。

 緊張と疲労で生気を失っていた彼女の表情が、屋敷の玄関に立つ人物を見ると一気に緩んだ。


「潤二郎……!」


 そこには平泉潤二郎が両手を広げて待っていた。

 千景は小走りで駆け寄り、その胸に飛び込んだ。平泉の腕が彼女を力強く抱きしめる。革のジャケットの匂いと、微かな煙草の香りが千景の鼻孔をくすぐった。


「良く逃げて来たな千景。怪我はないか?」

「うん、大丈夫……。すごく怖かった……でも、潤二郎に会いたくて頑張った」

「ああ、お前は最高の女だ。本当によくやってくれた」


 平泉は千景の頭を優しく撫で、耳元で甘く囁いた。

 すると千景の目から堰を切ったように嬉し涙が溢れ出した。


 彼女には見えていなかった。自分の肩越しに平泉が浮かべている冷酷な薄笑いを。そして、彼女が壊した親友関係や彼女が殺害した広尾のことなど、一ミリも気にかけていない異常性を。


「すまないが、今ゆっくりしている時間はない」

 千景は頷く。今の千景にとって、この男の存在は世界の全てで、正義だった。


「もう出発するのか」

 二人の傍らで低い声が響いた。

 カロル・ドーンだ。彼は、これから始まる死のショーを見物する観客として、どこか愉快そうに二人を観察していた。


「ああ。奴らも俺たちを必死で追ってるだろうしな。同じ場所に長居するのは危険だ」


 平泉は千景の肩を抱いたまま、ドーンに向き直った。

 ドーンは頷き、懐から何かを取り出した。それはUSBメモリより一回り小さい、黒いスティック状のデバイスだった。

 彼はそれを放り投げ、平泉が片手で見事にキャッチした。


「イッサン、君にプレゼントだ」

「これは?」

「起動用のスマートキーだ。私専用の地下駐車場に置いてある『試作機』を使える」


 ドーンはニヤリと笑う。


「ここから少し離れた地下駐車場に、我が社の技術の粋を集めたプロトタイプのマシン……いや、『スーツ』が置いてある。元々は介護事業向けに我が社で開発していた代物だが、軍事用に改造してある。そのスマートキーを差し込むだけで直ぐに使える」

「そいつはありがたい。サンキュー、ドーン」


 平泉はキーをそのまま千景に手渡した。


「千景。寝てないところ悪いが、今からここを出て別行動で移動する。俺の『隠れ家』で落ち合うぞ。俺らはアメリアに顔が割れてるから、電車などの公共交通機関は使えない。車で移動する」

「はい。私、あなたのためなら何でもするわ」


 千景は迷いなく頷いた。広尾さやを殺めて一線を越えた彼女の脳内からは、後悔も良心の呵責もとうに漂白されていた。もはや、ひたすら平泉に隷従するだけのマリオネット。

 二人はドーンに見送られ、地下のガレージへと消えていった。


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