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14-8 普通でないのはどちら?

 張り詰めた空気が、白い壁に囲まれた簡素な部屋を支配していた。

 大使館の一室。対話による洗脳の解除を試みていた時間は、皮肉にも両者の断絶を浮き彫りにするだけの結果に終わっていた。洗脳の谷は底なしに深い。


「外出されるのですか?私も付き添います」


 部屋を出ようと腰を浮かせた大洗千景に、広尾さやが即座に反応する。その声は業務的で冷静だが、瞳の奥には微かな警戒色が宿っていた。

 千景は不快感を露わにして眉をひそめる。


「ここでは一人になる時間も与えられないんですか?」


「この大使館内は日本国ではないのです。ここでのルールにご理解とご協力をお願いします」


「無理矢理連れてきておいて、あなた方のルールに従えと?一方的な要求ばかりですね。自由の国のはずなのに」


 千景の言葉は鋭利な刃物のように尖っていた。かつての優しい親友の面影は今の彼女からは微塵も感じられない。

 岬は、悲痛を堪えながら必死に言葉を紡いだ。


「千景、違うの。ここに連れてくるように頼んだのは私なの。あなたを守りたかったから」


「私が潤二郎に騙されていると、あなたたちは決めつけているけど」


 千景は冷ややかな視線を岬に向け、哀れむように首を振った。


「本当に騙されているのは岬、あなたじゃないの?あなたに謝りたいって、彼はずっと言ってるのに」


「さっきの平泉の態度を見たでしょ?あれが彼の本性。あの男のバックには海外の組織が……」


「やっぱり私から見たら、普通じゃないのは岬の方だよ」


 その一言が、決定的な拒絶として岬の心に突き刺さる。

 千景にとっての正義は平泉であり、岬やアメリア連邦こそが、彼女たちの関係を引き裂く悪なのだ。何かを言えば言うほど、彼女は自分の殻に閉じこもり敵意を増幅させていく。

 言葉が届かない。もどかしさと悔しさが岬の瞳を潤ませる。


 広尾は短く息を吐き、プロフェッショナルな表情を崩さずに告げた。


「……申し訳ありません。建物の外に出るのは構いませんが、大使館の敷地外には出ないでください」


 千景は大きなため息をつくと、岬に背を向けて部屋を出ようとする。

 岬は反射的にその後を追おうと足を一歩踏み出したが、千景の手がそれを制した。


「お願い。少しだけ離れて考える時間をちょうだい」


 拒絶を含んだ懇願。これ以上追い詰める訳にもいかない。そう危惧した岬は、唇を噛み締めながら同意するしかなかった。


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