第1話:影の訪れと招かれざる客
穏やかな「ミケネコカフェ」は、猫好きの聖地として知られていた。そこには、世界各地から集められた個性豊かな猫たちが、それぞれのんびりと日々を過ごしている。店の片隅では、日本の古き良き血を引く三毛猫の「ミケ」が、長い尾を優雅に揺らし、まるで遠い過去の記憶を辿るかのように目を閉じている。
彼女は、このカフェの長老であり、エルフのように聡明で、時折、猫たちには理解しがたい深遠な言葉を口にする。
カフェの中央、陽光が降り注ぐ窓辺では、ふさふさとした長毛を持つヨーロッパのヒマラヤン「ヒマラ」が、丸々と太ったお腹を晒して寝息を立てていた。彼は、ホビットのように愛らしく、穏やかな性格で、カフェを訪れる人々や他の猫たちから愛されていた。
ヒマラの隣では、短い足でちょこちょこと歩き回るアメリカのマンチカン「マンチ」が、客の落としたおもちゃを追いかけている。マンチは、ドワーフのように勇敢で、時に見せる不器用さがまた愛らしかった。
そして、カフェの奥まった場所には、神秘的な雰囲気を纏うエジプトのバステト「バステト」が鎮座していた。彼女は、イスタリのように賢明で、滅多に言葉を発しないが、その鋭い眼差しはカフェのすべてを見通しているかのようだった。
だが、この平和な日々は、ある日突然、終わりを告げた。カフェの扉が、今まで聞いたことのない軋みを立てて開かれ、一匹の異様な猫が姿を現したのだ。その猫は、被毛がほとんどなく、筋肉質な体躯を持つロシアのドンスコイ「ドンスキー」だった。彼の目は、まるで深い闇を宿しているかのように冷たく、その存在はカフェの空気を一変させた。
ドンスキーは、まるで冥王サウロンの如く、威圧的なオーラを放っていた。彼がカフェに入ってきた瞬間から、ヒマラは毛を逆立て、マンチは尻尾を丸めて物陰に隠れ、バステトさえもその瞳に警戒の色を宿した。
ミケは、静かに目を開け、その冷たい視線をドンスキーに向けた。「招かれざる客よ」ミケの声は、鈴を転がすように澄んでいたが、その中には確固たる意志が宿っていた。
「貴様は何者か、何ゆえこの平和な場所を侵すのか?」
ドンスキーは、低い唸り声を上げ、その場に不気味な影を落とした。
「私は、すべてを支配する者。そして、このカフェも、いずれ私のものとなる。」
彼の言葉は、カフェの壁に響き渡り、猫たちの心に恐怖を植え付けた。
カフェのオーナーは、ただただ困惑するばかりだった。彼には、猫たちの間で繰り広げられている、目に見えない戦いの予兆を感じ取ることはできなかった。ドンスキーは、その日のうちからカフェに居座り、他の猫たちに不気味な影響を与え始めた。ヒマラは食欲を失い、マンチは活気をなくし、バステトの瞳からは光が失われつつあった。
ミケは知っていた。これは始まりに過ぎない。遠い昔、猫たちの間で交わされた約束が、今、再び試されようとしていることを。そして、その試練が、この「ミケネコカフェ」を舞台に繰り広げられることを。