1-1 復活の日
初めまして。坂本一と申します。
よろしくお願いいたします!
幽霊・怪物・魑魅魍魎。
これらは人間の数ほど存在し人間の数ほど多様化した社会を持つ。
時にこれは人間の世界に跋扈し、人間へと害を成す。
――X町A群
とある古民家の畑にて。
「巫術!」
白く、くねくねとした白いモヤの化け物が、閃光に照らされ、灰塵と化した。巫女の術により、跡形もなく化け物は消し飛んだ。
「おっけーです!片付きましたよ、おばあさん」
今回の依頼は、通称「クネクネ」の除霊?依頼。霊じゃないから駆除の方が近いかもしれない。くねくねした霊敵な何かの総称に、見たままの擬音語がついてしまっただけのものなので、そこまで害はないけれど、それでも夏バテだったり病んだりしていると精神汚染されてしまう。
ついでにクネクネを見てしまった人のお祓いもして、今回の任務は完了!
常夏の悪霊も、これで暫くは出てこない。
「ありがとうね。お嬢さん。これ、依頼料」
「まいどどうも!えー、丁度ですね。もうないと思いますけど、また何かあったら連絡くださいね」
みんな無事でよかったけれど、こういった片田舎の集落みたいなところの人たちは、変に仲間意識が強くて少し辟易してしまう。
変わった風習があるところもあるので、巻き込まれないようになるべく深くは関わらない。
これが霊媒師の正しい生き方。日本お祓い協会のマニュアルにも書かれている。
町民の人達の感謝を他所に、軽いノリでかわし、次の作業の準備へうつる。
「お嬢ちゃんが近くに来てくれてて良かったよ。有名な霊媒師なんだってな。」
なるべく関わらないようにはするけど、困っていればもちろん助ける。私のモットーなのでどうしてもそこは譲れない。
「でも、いったいどうしてこんな辺境に来てたんだ?」
「ああ、人探しで学校を回ってるんですよ。そのついでにこうやってお金稼ぎを」
あの人に、あの霊にまた会うため、全国各地の学校という学校全てを見て回っていた。
「んん?でもこの町には学校なんてないがね」
「廃校も確認してるんですよ」
「ええ!?ワシらが生まれるより前からあるあの校舎?あんな危ないところに恩人を入れる訳には……」
「大丈夫ですよ!協会にも許可貰って、お祓いのついでに入れるようにしてもらってるんですよ」
日本最大手の除霊事務所、日本お祓い協会所属。エース霊媒師こと、この私「安藤はな」にかかれば、少しくらい協会も融通を利かせてくれる。その代わり、いつもダルめの依頼をなげてくる。人を社畜かなにかと思っているのかもしれない。
「はあ、そうなのかい。まあくれぐれも気をつけてね」
「ええ、ありがとうございます!」
私も趣味で廃校巡りなんかしてる訳じゃない。花子さんを、あの花子さんを見つけ出したい。それだけのために全国の廃校を巡っている。
花子さんと言えば、「トイレの」が冠詞につくあの花子さん。おカッパヘアーに、ブラウスのシャツを着て赤いスカートを履いた小学生くらいの見た目をした幽霊。
オカルトブームが去った今、花子さんの喚び方を知る人も少なくなってしまった。
まあ、あれ事態も失敗しても大丈夫なように、安全に改良されたやり方だったので、実際に花子さんを喚べた人もそこまで多くないだろうけど。
喚ぶのにも、失敗するのにも当然代償がいる。地元の寺や神社なんかが改良して、嘘のおまじないなんかを流布していたらしい。実際私の地元なんかも実家の寺が私や近所の子たちを介して安全な方法のへと誘導していたみたいだった。
「コックリさん」なんかもいい例で、如何にもという感じで色々と種類がある。
花子さんを喚ぶ儀式は正しくは「夕暮れ時、西の窓から夕日が指す3階の女子トイレ。奥から3つ目のドアを3回ノックし「花子さん、遊びましょう」と声をかける」というもの。
ただし、トイレに入るのは一人だけ、他の人が居てはいけない、など制約があるよう。
そしてこのとき、夕陽が沈むまでに学校をでなければならない。失敗すれば相応の代償が支払われる。
廃校時期に反して、見た目が綺麗な校舎にたどり着いた。X町立小学生とかかれた看板は横たわり、その威厳はまるでなかった。
鍵は協会がどうにかしてくれたのか、元々かかっていないのかかかっておらずすんなりと中に入れる。
木製建ての校舎に反して、しっかりとした創りから、年期の軋み以外は問題なく使用できそうなほど状態がいい。ただ、その校舎は本当に校舎であったかさえ分からない程もぬけの殻で、学校の温かみを感じさせない、冷たさを感じる物にしていた。
事前準備に、机の並ばない教室を横目に3階の女子トイレへと向かう。
女子トイレは水道も通っていないだろうに、ほんのり湿気て、機能を保っているかのようだ。
「よし、時間もバッチリ、西から陽もさしてるし、3つ目のドアもちゃんとあるね。廃校だから人もいないでしょう」
指差し確認がとにかく重要!どんな仕事でもどんな時も大事なこと。
念の為周りをみて、さっきの人たちが着いてきていないかも確認した。
いつものようにちゃんと確認して、儀式へとうつる。
トントントン
3回ノックをして呪文を唱える。「はーなこさん。あそびましょ」
短くて長かった花子さんとの思い出を回顧しながら、再会出来る一縷の望みをこの言葉に託した。
霊気がほんのり漂うのを感じた。
「ハーアーイ」
冷や汗と共に、成功に安堵した。
ゆっくりと扉を開ける。そこにはニコニコとした小学生程の少女が佇んでいた。
安堵もつかの間、私の知る花子さんで無いことに肩を落とした。
「ン、なんかガッカリした?」
こちらを睨みながら、なんだか凄みのあるドスの効いた声で話しかけてくる。年齢と様相にはまるで似つかわしくない声だ。
喚びだしておきながらこの態度は無いなと我ながらに思う。
「いえ、そうじゃないの。私の知り合いの花子さんじゃなかったなーって思って」
そもそも、花子さんは何人もいる。見た目の噂が地域によって違うのもこのせいだ。
「アラ、そうなの。ソレは失礼。改めてワタシは花子。ヨロシク」
「うん。よろしく。とりあえず何かして遊ぼうか」
「いっせーのーで、イチ!!!よし私の勝ち!!」
「クゥーー!!もう一度!!」
さっきの話し方に比べて、案外子供っぽい性格の子のようだ。
「まあまあ、私には叶わないよ。勝負に負けたことないの私。ジャンケンさえ負けたことないんだから」
「なんだソレ。非科学的ナ?」
幽霊にそれを言われても信憑性にやや欠ける気がする。
まあ、指スマも程々にして。
「ところで花子さん、他の花子さんと交流あったりする?」
「急にナニヨ」
少し考える素振りをみせる。
「無いワ。貴方、他の色んな花子たちに会ったことアルみたいだからワカルでしょう?どれだけ有名になって力が強くなっても私達はトイレから出られナイノ」
今の考える間はなんだったんだろうか。
「やっぱりそうだよね〜。でも貴方この校舎にいるってことはそこそこ古株でしょ?何か知ってないかな〜って思って」
「目敏い子ネ。でもゴメンなさいね。貴方の役にはたてないワ。私が知れるのもこの町のことで精一杯」
少し残念だけど、会えないのはいつものこと。
「いえいえ、ありがとう」
「その点で言えば感謝するのはワタシのホウね。皆を助けてくれて、感謝スルわ」
「アラ、そろそろ夕暮れよ、早く帰りナさい」
「ああ、もうこんな時間か。早いね〜」
荷物を背負い直し、帰路に着く。
「仕方ないからおまじないダケかけてあげる。特別よ?」
花子さんのおまじないは、呪いの類ではなく、悩みの解消に近づけるヒントをくれるようなものが多い。花子さんは永遠の乙女の味方。いつだって私たちを見守り続ける、そんな存在。
この花子さん、校舎を綺麗に保つ力もそうだけど、やはりなかなかやり手の幽霊のようだ。町民に学校の再利用でも打診してみようかな。
「あー、今回もダメだったなー」
夜が深くなるまでに帰らなければ。
夜はいつだって魑魅魍魎、妖怪たちの巣窟なのだから。
魔除けの結界を使い、帰路へとつく。
いつになれば、また会えるんだろう。
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