第一話「この世界はすべてを許容する」
世の中にフルダイブVRゲームというジャンルが確立されてから様々な変化があった。
現実と虚構の境目が曖昧になり仕事の形態が変化し、様々な社会構造の変化をもたらした。
画面でゲームをすると目が悪くなるという観点から教育現場では簡易VRが主流となった。
少子化の緩和政策としてバイオロイドという割れるアンドロイドが子どもたちの精神を育んだ。
今までの社会常識が変化したが、特に影響が大きかったのは趣味にまつわるジャンルだ。
最初は正直、画像の解像度、安全性、健康、様々な問題があった。
だが、今際かなり様子が変わってきた。
特に健康面での状況の改善が大きい。
現在のVRゲームのプレイ時間は最大でなんと十分なのだ。
一分を従事感に延長する脅威の時間間隔拡張技術が今の時代にはある。
だから満足に遊ぶ時間を確保することができる子どもたちは恐ろしく勤勉に働くようになった。
日本の社会構造は大きく変化したのだ。
まあ、そんな話は歴史の時間にでもおさらいしよう。
今はそんなことよりも新しいゲームの話がしたい。
「もしもし、インする時間あわせるか?え?はじめはチュートリアルはソロプレイがいい?わかった。そんじゃあ明日からだな、じゃあ明日学校で!」
初等部からつるんでいた学習進度の友人との通話を切り新しく購入したゲームのアクセスソフトをヘッドマウントディスプレーに入れる。
今話題のタイトル「アンリミテッドアクセス」をプレイするのだ!
このゲームはすごい!発売から二年が経過したが今だに売上ランキングに顔を出しアップデートを繰り返しゲームの人気上位を保っている。
なにより面白いのだという、ウチのクラスのなんと八割がプレイしている。
父さんがポ◯モンかな?って言ってた。
このゲームのコンセプトは何にでもなれることだ!
ちなみに同じゲーム内の社会人に人気のコンテンツでは上位層のゲーマーたちが会社を起こしNPC達に経営をさせることで巨大な市場を作り上げ正直現在の学習 深度ではよくわからない社会を形成しているらしい。
何でも惑星間航行が可能な世界で大規模な宇宙戦争が行われているんだとか何だとか?そのうち行ってみたいが要求されるレベルが非常に高いのでゲーム内と現実、双方の世界での一定以上の修学が必要らしい。
親が金持ちな友人が一度だけその世界を覗いてみたことがある そうなのだが乗っていた宇宙船が爆破されそのまま宇宙空間に放り出された挙句、謎のミサイルに引っかかってそのまま帝国宇宙軍の艦隊に突っ込むハメになったとかなんとか。
めちゃくちゃ見てみたいがその友人はしばらく 広い空間に対して一定以上のストレスを感じるようになってしまったらしい。その手のVR後遺症としては珍しいがそう医師に診断されたんだとか。
閑話休題
友人のトラウマは心配だが今はゲームをしよう。
「ロードは完了、登録も済ませた、あとはカブって座ってスイッチオン!」
「おっ!きたきたきたきた!」
思考加速のためのロードが入る。
その間約三分!
今から一分が60倍だ!
今では多くのVR技術になるところ思考加速装置が導入された。涙ぐましい回数の人体実験の結果60倍という数値が負担のかからない範囲での限界の加速であることが判明している。この技術の発展により開発を担当したメーカーは世界を牛耳るほどの大会社に出世した。
「ようこそ、究極の接続体験!アンリミテッドアクセスの世界へ!」
ゲームが開始されると目の前にデフォルメされたドクロの仮面が現れた。
「おお!これがあの有名なドクロ仮面か!」
「おや?君は僕を知ってるのかな?チャートリアルは必要かい?」
「ほしいほしい!初めてだから何にもわかんないよ!」
「オッケー!さっそく始めよう!ココはアンリミテッドアクセスのスタートアップロビーだ!今からこのゲームの大まかな説明とキャラメイキングをしてもらう!でもその前に君にプレゼントだ!」
うお!目の前にいきなり光が収束し何かが現れた!
『無個性の仮面』をに入れた!
テロップと同時に機械的な音声が流れる。
「かめん?」
「その仮面がいわゆる この世界におけるアバターの元となる素材だ!さあ、その仮面に向かって君がどんなモノになりたいのか話しかけてみよう!」
きた!これが噂に聞いていた最初の分岐点か!
よし!言うぞ!俺の望み!現実では絶対になれない俺の夢!
「サムライになりまたい!」
ここから波乱万丈な俺のゲーム ライフは始まる!
「サムライ?ほう!えらく古風な生き方だね!でもいいんじゃないかな?その迷いのなさ!気に入ったよ!」
どうやらドクロ仮面の反応は上々 らしい!
「それじゃあ アバターの作成をしよう!この中から好きな動物を選んでくれ。君の持つ『無個性の仮面』のモデリングとアバターの雛形を決めるぜ!」
提示された選択肢は5つ
キツネ。
タカ。
イノシシ。
キンギョ。
カブトムシ。
おお、何だか仮面の凄いモデリングだ。
AI特有の自動生成なのだろうが少なくともどの仮面もダサいということはない。
ただ自分の中のサムライのイメージに適合したのはキツネとキンギョだった。
キツネは大昔に資料で見たお祭りに出てくるお面によくできている。
キンギョの方は顔の前を綺麗な赤いヒレをなびかせながら 1匹の金魚が泳いでいるようなデザインだ。
少しキンギョに後ろ髪を引かれたがオレはキツネの面
を選んだ。
白を基調とした目の下に点みたいなアカの入ったお面だ。かっこいい!
「仮面をかぶってみてくれ!」
少し緊張する手で仮面をかぶる。
かぶってもなぜか視界を塞がれる感覚はない。
たがかぶっている実感はある。
不思議な感じだ。
「その仮面は君がこの世界にいる証しだ。現実とは違う世界を生きているね。仮面で虚構と現実を繋げ、同時に切り離すんだ。」
この独特の手法。仮面効果が一種の自己暗示となり様々なシステムアシストと共にこのゲームを現実から切り離している。
詩人な友人から聞いてはいたが実感すると面白い感覚だ。
「その服装は気に入ってくれたかな?」
「おっ変わってる!」
時代劇などで町人の格好として定番な小袖だ。
水戸黄門が好きなのでなかなかグッとくるデザインだ。色味は紺色で狐面との相性もいい感じだ。
「ああ、いい感じだ!」
「お次はこれだ!」
そう言うとドクロ仮面はカタリと仮面の裏から何かを垂らした。
刀ではない?長ドス?白鞘の刀だ。
「この世界は動きをアシストするスキルの補助を受けられる。だがリアルな処理が行われているから動きに慣れるまではコレを使って練習してくれ!」
最近のVRゲームでは動きを補助するためのプログラムエンジンが 精密に組まれている。アンリミテッドアクセスはアクションゲームだ。
このゲームの人気の秘密はその革新的な物理補助のプログラムエンジンにあるとされている。
現実では到底行えないような動きも行える。
まるでヒーロー映画の中の主人公のような、本物のスーパーマンになれるのだ。
「まずは試し切りだ!」
始まりはすごく小さなきっかけだった。
「その剣でコレを切ってみてくれ!」
「よっしゃ!」
ぶっ恰好な抜刀
ざくりときれた巻藁
そして試し切りで提示された巻藁の切り口はすごく不揃いだった。
リアルなゲームだから、初期装備の切れ味はあまり良くなかったから、少し 刃物に憧れを抱きすぎていたから、言い訳はいくらでもできる。だが、その断面が気に入らないという理由が自分の初期衝動だった。
上手になりたいという純粋さが俺はどこか狂気じみな世界へ導いていったのだった。