魔王軍の緊急集会
「思ったより早かったね」
魔王城に着くと、レイナはそう言った。
確かに、想像していた時間より遥かに短い時間だったのだ。
「そうだな。じゃあ入るか」
魔王城は、本当に想像通りの「魔王城」みたいだ。豪華な装飾に、不気味な空気を作り出す造り。立派な城だ。
「さてと、どうなる事やら」
レイナがそう言うのと同時に、俺たちの前の巨大な門は開いた。人はいない ー どうやら「入れ」という意味らしい。
中に入ると、そこは一つの扉に繋がる一本道となっていた。
「おい、これ何で一本道なんだ?城としておかしいだろ」
「恐らくだけど、何かしらの魔法で組み替えられてるんだろうね。ヴァルトの空間魔法に似てるのかも」
レイナは気にせず、その通路を歩き出す。
扉の前に着くと、それは自動で開き、その奥から聞いたことのある声が聞こえた。
「来たか、ケンイチ。それにレイナも」
ハンズだ。
扉の向こうの部屋は、会議室のようなものだ。もっとも、ミラビリス国本部とは比べ物にならないくらい豪華な装飾がされているが。
部屋の中央には大きなテーブルがあり、周りを十三個の椅子が囲んでいる。既に十二個は埋まっているようだ。
「片方の椅子しかなくて悪いな。一つは旧ミラビリスのクライングランが使っていた椅子があったのだが、緊急だったのでもう一つを用意できなかった」
とハンズは続けた。
「大丈夫だよ。いや、この場所では大丈夫ですよ、かな?ともかく、僕は形式上は健一の従者。この会議に参加することすら難しいはず」
レイナは俺の横に立つことにしたらしい。
「そう畏まる必要は無い。貴様らは魔王軍派閥では無く、同盟国なのだからな」
「では、全員揃ったところで会議を始める」
一人の魔王軍幹部が言った。
前世の俺と同じくらいの年の女性だ。十七歳くらいか?魔王軍幹部にしては若すぎじゃね!?
そう思ったが、この世界には不死個体というものがある。若くしてそうなったと考えると納得だ。
不死個体は歳を取らないからな。
「参加者は、
魔王:クトゥルーゼ様、
魔王軍派閥レイジのリーダー:アイル、
魔王軍派閥ザルドルズのリーダー:ザイカルン、
魔王軍派閥ファウアルティのリーダー:ライレーク、
魔王軍派閥ルナーヴィクのリーダー:ハンズ、
魔王軍派閥クリートのリーダー:クリフ、
魔王軍派閥テュスエルのリーダー:カリテン
魔王軍派閥アウレースのリーダー:ショッズ
魔王軍派閥コヴァエントのリーダー:アングル
魔王軍派閥シイユールのリーダー:シイユ
魔王軍派閥オベーイクのリーダー:オベリスク
私、魔王軍派閥アストラのリーダー、ヴィズ=ヴァスカーナ
そして同盟国:ミラビリス王国のケンイチとレイナだ。
早速だが、今回は新たな仲間の紹介と、今回のヴァリー帝国との戦闘についてだ」
その後彼女はさっそく、俺たちについてを語り始めた。それ普通ハンズがやるべきことじゃね?
次に、彼女は
「さて、説明が終わったところでこちらの紹介だ」
と魔王軍の説明を始めた。やっと魔王軍の情報が手に入る!
恐らく、魔王が倒されてはいけない理由もここで知ることが出来るはずだ!
「まず、私たち魔王軍は12個の派閥からなる ー いや、なっていたんだ。500年くらい前にクライングランが死に、11派閥になってしまったがな。
魔王軍派閥のリーダーは、魔王軍の幹部だ。そして、魔王軍幹部はこのように集会に参加したりする。
次に、魔王軍の活動内容だが・・・これは主に、魔王:クトゥルーゼ様を守るために日々力をつけることと、人間の牽制、生命力の減少を止めることだ」
生命力?何だそれは?
「おい、一つ聞いて良いか?」
「話の途中だが、何だ」
あー、こういう人か。話の邪魔をされたく無いタイプだな。
だが知るか、そんなこと。
「生命力ってなんだ?」
彼女はため息をつく。
なんかレイナに似ている要素を感じる。
「今からその説明をするつもりだったのだが・・・まあ良い。生命力とはその名の通り、生命が存在するための力だ。生命力とは空気のようなもので、この世界にありふれている。そして基本的に減ることは無い。だが、古代の文明は生命力を異世界召喚を行うエネルギーに変換した。私たち魔王軍は、この生命力の減少に気付いた者たちが偶然集まり、結成した組織なのだ。
そして私たちは日々、生命力の減少を止めるために動いている。その鍵が、魔王:クトゥルーゼ様にある。クトゥルーゼ様特有のスキル"空間設定"により、一定の空間の規則を書き換えれる。これを全世界に適応し、生命力の減少を抑えてきたのだ」
話終わると、今まで話していなかった一人の男が口を開いた。
「ヴィズ、お前はいつも説明が下手だな」
「クトゥルーゼ様?!」
突然魔王に指摘をされて驚いた様子の・・・ヴィズ、だっけか。ヴィズのさっきまでの「完璧人間」的な雰囲気は消え、ただおどおどしている美少女になった。
そういや余談だが魔王の影薄くねえか。ここまで全然気付かなかったぞ。
「ヴィズの話は細かくて情報が多い。良い点でもあるのだが、今回の相手はそれを処理しきれていないかもしれない。もっと簡単に言えるようにしてくれ」
「え、えっと、す、すみません、気を付けていたつもりだったのですが・・・」
ヴィズがそう言い黙り込むと、魔王:クトゥルーゼは笑い、俺に向かった。
「難しい説明だったかもしれないが、そういうことだ。生命力の減少を防ぐために我々は活動している。そしてついでに、人間の争いごとを牽制する役割も担っているのだ。だれも争いは好きでは無いからな」
クトゥルーゼは、老人のようだ。影の薄い、老いた魔王。なんじゃそりゃ。
「と、とりあえず、新参に説明を終えたところで本題に移りましょう ー じゃなくて! ー 移ろう」
ヴィズはいつもの自分に戻すために葛藤しているらしい。
その様子に、魔王軍幹部らの半分くらいが小さく笑い、俺の後ろに立っていたレイナが何故か「うふふ」と反応した。一応確認だが・・・コイツ元男だよな?!それ以前にこんな性格の奴じゃなかったよな?!
「今回、魔王軍派閥レイジが管理する森にヴァリー帝国が攻めてきた。無論、前回の集会もその最中だった訳だが、その時はそこまで問題だとは思わなかった。しかし事態は急変した。相手に"剣聖"7人と、三大勇者の一人が参加していることが分かった。
剣聖とは"剣士会"という組織が規定している剣士の強さの基準の一つで、"剣神"の次に強い。剣聖は並の魔王軍派閥の幹部程度は超えれる力を持っている。当初から存在する魔王軍派閥レイジの幹部であれば、勝てると思うが、それでも油断できない相手だ。
次に勇者だが、その名は漆黒の勇者:フェート=クロムウェイ。奴はアイルと同等の強さを誇っている可能性が高い。つまり今まともに反撃すればロイヤーからの攻撃を受ける可能性が高まり、放っておくとヴァリー帝国に負ける。最悪の事態だ」
ヴィズはそう告げた。アイルの強さが分からんが。
だが事前にハンズが言っていたことによると、最古の魔王軍派閥はレイジ、アストラ、ミラビリスで、レイジのリーダーであるアイルは魔王軍トップクラスの強さになる。
「さて、そんなことで、ミラビリス王国のレイナにやってもらいたい事がある」
は?レイナに?
「ぼ、僕になにか用?」
レイナも驚いている。
「君のそのスキルでヴァリー帝国の重役を暗殺してくれないか」
「ええ?!!」
なんてこと頼んで来るんだコイツ!
あといつの間にレイナの即死スキルがバレてるんだ!?
「今から他の者への指示を出す。レイナと、まあケンイチも残ってくれ」
俺はついでにかよ。というか最初から疑問に思ってたがヴィズって結構上から目線だな。俺らは同盟国なのに。
こんな訳で、レイナは嫌な役を押し付けられた。正直言って、人殺しとなると荷が重い。なんとか出来ないだろうか・・・