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別に君が嫌いな訳じゃない・・・

あけましておめでとうございます?

「この服はどう?!」


「え、ちょっと可愛いすぎかな・・・」


「良いじゃない!レイナちゃんは可愛いんだから!」


 僕、レイナはストリームにまた着せ替え人形にされていた。

 ちょっと前まで、魔王軍幹部のハンズに緊急集会に来るように言われ、その準備をしていたんだけど・・・


「じゃあこの服は?!」


 見ての通り、ストリームに捕まり、集会に着て行く服を選ばされてる。

 普通の服で良いのに!!


「そろそろ時間だから、もう行くね?」


「でもまだ・・・」


「じ、じゃあまた後で!!」


 半ば逃げるようにストリームの家を出た。そして林健一と町の門の前で合流した。


「よし、行くか」


「うん、そうしよう」


 魔王軍の幹部集会は、もっとも安全とされる魔王軍領の中央、魔王軍派閥アストラの管理区域にあるらしい。

 無論そこまで徒歩で行くのは大変だけど、風魔法を上手く使うことによって、空を飛べる。だから、魔力量が多い者は移動に困らない。


「じゃあ林健一、任せたよ」


 林健一は何故か不満そうだった。


「おいレイナ、良い加減に健一って呼んでくれないか?」


 はあ?馴れ馴れしく下の名前で呼べと?

 こんなバカを?!


「嫌だよ。友達じゃないし」


 残念そうにする林健一。まったく彼は急にどうしたの?早く行かないと集会に間に合わない可能性もある。


「そんなに俺が嫌いか?」


「は?」


 唐突にそう聞かれた。


「いや・・・別に・・・嫌いな訳じゃ・・・ないけど・・・」


 彼から目を逸らした。

 別に嫌いな訳じゃない。だけど僕に友達なんていないし・・・


◆◇◆


 レイナ ー いや、斎藤ひなたについてずっと疑問に思っていたことがある。

 何故か一向に俺を下の名前で呼んでくれないのだ。もちろんこの世界の者には俺の名前は「ケンイチ」と伝わってるから人前ではケンイチと呼んでくるが。

 エンバーとかはエンバーと呼ぶのに。

 出会った時のことは、いまだに覚えてる。高校二年生になったばかりで、初日が終わった後。教室で帰る準備をしている時に、たまたまひなたを見かけ、話しかけたくなったのだ。その理由は知らん。


「僕に話しかけるなんて、君は変わり者だね」


「そうか?まあ何となく話しかけようと思っただけだし、そうか」


 これが初めての会話だ。声をかけられても、ずっと下を向いて、帰る用意を進めている。


「何か用はある?無いならさっさと何処か行ってよ」


 男にしては長い髪だった。わざとそうしているというよりかは切るのが面倒な感じで、目も暗い。


「いや、特に無いんだが・・・その・・・なんだ、一年間よろしくな!」


 彼は驚いたかのように頭を上げて俺を見た。そしてその時、初めて彼の顔を見た。

 正直言っておこう。コイツ本当に男なのか、と疑った。美少女そのものか?おい!


「う、うん。君の名前は?」


「俺か?俺は林健一だ。健一とでも呼んでくれ!」


 ひなたは少しの間ぼーっとしていた。

 しばらくして、急に正気を取り戻したかのように


「そ、そうなんだ。僕の名前は斎藤ひなた、まあよろしくね、林健一」


 とだけ言って急いで教室を出て行った。

 この時に抱いた感情は、「嫌われてしまったか」だった。

 だがその後も何となく、話しかけようと思い、ひなたに喋りかけ続けた。当初は彼からあまり返事は無かったが、徐々に何かしら返してくれるようになっていった。

 「よく毎日僕に話しかけようと思うね」とか「さっさと帰れば?」と言われる時もよくあったがな。

 だが何があっても、彼は一貫して俺を林健一というフルネームで呼んできた。他の人のことは・・・ってまず元の世界で他の人とひなたが喋っているのを見たことがない。

 転生後は、エンバーのことをちゃんとエンバーと呼んだりしているが・・・俺だけはやっぱりフルネームだ。

 そういう考えから、今の状況に至る。



「・・・」


 俺から目を背けたまま、レイナは黙っている。


「お、おいレイナ?お前こそどうした?」


 少しして、レイナはゆっくり俺と向き直した。

 そしてため息をつくと、


「おそらく君に伝えるべきことがある。だから・・・少し聞いてほしい」


 と彼女は神妙に言った。

 俺が答えるより早く、彼女の話は続いた。


「元の世界の僕の両親は早くして亡くなった。だから祖父母に面倒を見てもらってた。ご飯とかは作ってくれるんだけど・・・あんまり話してくれないし、何も手伝ってくれない。高校に行きたいって言ったときもお金がかかるって嫌な顔をされた。嫌われてたのか、なんなのか。今も真相はまったく分からないけどね。でも確かなのは、僕は自分が嫌われる存在、無視される存在、そう考えてた。元より小学校でいじめとか受けてたし・・・親以外に自分を理解してくれる人はいなかった。

 だから基本人と話さなかった。どうせ他のみんなと同じように無視してくるのだろうから。暇つぶしにすることは、歴史の本とかを読み漁ったり、ゲームをすることだった ー まああんまり面白く無かったんだけど。そんな感じで生きてきたら、突然君が現れた。ずっと喋りかけてくる君が。

 でもあんまり親しい関係にはなりたく無かった。だって、友達になったら、いつか無視された時に心が痛むから。だから・・・だからあえて、君とは親しい関係を作らないようにした。"こんなバカと自分は親しくなれない"なんていう言い訳をつけてね」


 一度レイナは止まった。そして笑った。


「って、なんか声に出すと急に自分がしょうもない人間に見えてきた。大したことないじゃん、あはは。でも・・・なんかずっと空っぽなんだよね。自分が何か分からないっていうか。あー、どうこの感情を伝えれば良いんだろ。分かんないね」


 また彼女は笑う。


「ともかく、この世界に来てさ、だいぶ変わったんだよ。僕を頼りにしてくれる人がいる。そして僕が頼れる人間がいる。なんか嬉しかった。それでも君のことだけは・・・やっぱり、もしも君に無視されたらって思うと・・・深い関係を持ちたく無かった」


 つまり、俺をフルネーム呼びするのは彼女にとって俺が大事だったからと?彼女なりにそれを表現する方法だったのか。


「なんか辛い昔話をさせて悪い。ただ気になっててな。俺だけいつもフルネームで呼んできて、なんか仲間外れにされてる気がしてな」


「え?君、そういうこと気にするんだ?」


「流石にするぞ?」


 暗くなっていた彼女だが、いつもの雰囲気に戻った。

 そしてレイナは、真剣に俺の方を向いて


「なんかごめんね。すごく表現しづらいけど、別に君が嫌いな訳じゃない。それじゃあ、早くいこうか、健一君」


 気になることはあるが、概ね疑問は解消された。嫌われてた訳じゃないんだな。

 安心して、俺は風魔法を発動し、魔王城まで急ぐのだった。

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