人助けなんてしたこと無いのに
Pixivで書いていた小説をなろうにも投稿することにしました。楽しんで読んでいただけると幸いです。
「もう少しでサンダール王国の中央都市 ー ウレスタルに到着する」
馬車の前の方からデータが言う。僕 ― レイナはサンダール王国に食料を届けに行っているのだった。
馬車には、僕、エンバー、そして何故かデータが乗っているのだった。サンダール王国に向かうと言った時、データに「ではレイナの安全の為に俺も行こう」と言われてね。
いや、エンバーもいるし、そもそも僕には即死攻撃があるから問題ないはずなんだけど。まあでも皆んなからしたら子供に見えるしね。中学生みたいだと言ったのは何処の誰だったか。明らかに僕の見た目は小学生である。
そんなことは置いといて、今はサンダール王国を助けることに集中しないと。ここまでの道でいくつかの町や村を通ってきたけど、多くの人が苦しんでいるように見えた。しかもエンバーによると、ウレスタルがもっとも荒れているらしい。どんなことになっているのか、少し怖い。
「というかデータ、君には"転送"スキルがあるよね?それを使えば早かったんじゃないの?」
データは横に首を振る。
「俺の転送スキルでは行ったことのない場所に移動することは出来ない。それに、使い過ぎると疲れる。他国に行く場合、あまり良い手段じゃない」
へえ、そうなんだ。
「それにしても、レイナ、私は君に本当に感謝している。ウレスタルに着いたら私は国王への連絡をするから、レイナとデータは宿で休んどいてくれ」
今度はエンバーが話す。僕はエンバーの方を見て、
「気にしなくて良いよ。こっちには大量の食料があるからね」
と返す。
ガタ、と馬車が揺れ、止まった。どうやらウレスタルに着いたようだね。
データがまず降り、次にエンバー、僕と続いた。
「うっ?!」
思わず声を上げてしまった。
降りた瞬間、とてつもない光景が目に飛び込んで来たのだ。
都市には悪臭が漂い、あちらこちらで家すら無くした人が倒れている。生きているのか死んでいるのか分からない状態だ。そして、遠くからは子供の泣き声が聞こえる。思わずめまいがした。
「大丈夫か?ま、私も良い気分では無いが。とにかく、私は国王へ連絡してくる。先ほど伝えた宿へ向かっておいてくれ」
エンバーはそう言い残すと、急ぎ城まで向かって行った。彼女も、頑張ってようやく平常心を保っているように見えた。
「レイナ、宿まで行くぞ」
おそらくここに来た三人の中で最も冷静なデータが僕を引っぱっていく。
会った時からデータは冷静を貫いてきている。そしてこういう時のデータの心情が一番わかりづらい。この風景を見ながら何を考えているんだろう。とにかく、今の僕は半分別の世界にいるようだった。意識が朦朧としていた。
データに手を引かれ、ただ過ぎていく荒れた町の風景を眺めていた。
◆◇◆
「レイナ、大丈夫か?」
まともに考えれるようになったのは、宿に着いた後だった。正直、ここまでの道のことをあまり覚えていない。ただ、二度と見たく無いということだけはハッキリ心に刻まれていた。
「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」
データにそう伝える。
ちなみに今は、エンバーが予約していた宿の部屋にいる。結講高級なところらしい。恐らく、エンバーから僕達への配慮だろう。
それにしても、ここまでのことを少しでも振り返ろうとすると、再びめまいがする。
「データはよく余裕だったね、あんな光景」
「別に余裕だった訳ではない。俺はただ目的を優先しただけだ」
データはいつも通り、冷めた顔を変えない。
凄いね ー と思ったんだけど、よく考えると元の世界の僕も同じだったはず。苦しむ人がいることはしょうがない、という意見を持っていたのに。
なんで今になって変わったんだろう。いや、今になってからじゃない。この世界に来てから、ずっと。少し変わった僕がいる・・・
でも、今そんなことなんて関係ない。その僕は人を助けたいと言っている。
「データ、外に出るよ」
「?」
急に立ち上がった僕に、データは少し驚いたようだった。そして表情には心配も含まれている気がした。
「危険だ、やめた方が良い。俺は問題ないが、レイナにはまだ早い。俺らは食料を届けに来た ー 今後この町の生活は改善されていくはずだ」
データは僕を止める。
だけど、もう僕の心は決まっている。
「僕も確かに食料を届けたら、今後この国の暮らしと経済は立て直されていくと思う。だけど、これは長期的な話。今からすぐに市民生活が改善されていく訳じゃない。今死にそうな人がいるんだから、できることは全部するべきだよ」
「しかし、全員を救うことは不可能だ」
尚データに止められ続ける。
「そうだね、全員は無理かもしれない。だけど、それは目の前の困っている人を助けない理由にはならない。僕を止めることは出来ないよ」
データがため息をつくのが聞こえた。
「わかった。俺も別に人を見捨てることが好きな訳じゃない。で、誰を助けるんだ?せめて生き残る可能性の高い人を選んだ方が良いだろうが・・・」
「ついてきて」
僕はそういうと、部屋を出て、宿を出た。
データも急いでついてくる。
誰を助けるか。僕は既に決めている。ここに来るまでの道のことで、思い出したことがある。宿のすぐ近くに四歳ほどの子供が捨てられていた ー いや、親が亡くなった可能性もある。
ここまできて優先順位をつけるのは嫌だけど、子供にはまだ長い未来がある。
「この子供か」
「うん」
宿を出てある程度すると、僕たちはその子供を見つけた。ボロボロの毛布のような何かにしがみついて泣いている。
「・・・」
よく見ると、それは・・・その物体は、女性だった。母親、なのだろう。
データはすぐに彼女の脈を測った。首を横に振る ー 死んでいるようだ。
僕は子供だけを抱き上げ、宿に連れて帰ることにした。僕の体も十歳前後だからすごく運びづらい。
「泣かないで、大丈夫だよ」
何故そんな言葉が口から出てきたのか分からない。僕はそんな人じゃ無いはずなのに。
「レイナ、俺が運ぼうか」
データが聞いてくれたが、これは僕でやりたい。元より助けると決めたのも僕な訳だし、責任は自分でとりたい。
宿までの道のりでその子は泣く力がなくなったのか、泣かなくなって眠っていた。
◆◇◆
宿の部屋に戻り、僕は空間魔法でしまっていたパンを出す。
ちなみに、データは今訳あって部屋にいない。
「ほら、食べて」
子供に差し出す。彼はようやく我に帰ったのか、
「お姉さんだれ?」
と聞く。当然の質問だろう。そして、恐らくさっき母親が亡くなっていたことは忘れている。かなりショックを受けたはずだし、まず幼い子供に「死」という概念があるのかも分からない。
「君のお母さんは・・・今少し遠くに行ってるんだよ。その間、僕が君の世話をするから安心して良いよ」
「でもお母さんは死んだんでしょ?」
「!?」
僕は驚いた。さっきまでのことは忘れていたんじゃ?!
子供は続ける。
「何でぼくをお母さんのところからここに連れてきたの?いっしょに死なせてくれたらよかったのに」
この子、ただの子供じゃない。並の子供よりあきらかに何倍も賢い。
それに、「死なせてくれたらよかったのに」って・・・
どう反応すれば良いのだろう。
長く固まり、迷ったあと、僕はゆっくりと答えた。
「君は死ぬには早いし、まだまだ未来がある。死んで良いわけがないよ」
それを聞いても、彼は意見を変えようとしなかった。
「でもぼくにはもうお母さんもお父さんもいないし、生きる意味なんて ー」
僕は彼の口を塞ぐ。こんな行動、今までしたことないはずなのに。
「そんなこと絶対に言わないで!」
彼に僕は顔を近づける。
「いい、生きる意味がないなんて何があっても言ったらダメだよ。そんなので死になんてしたら!!・・・」
今日は、自分が何をしているのか本当に分からない。