三大勇者の計画
Pixivで書いていた小説をなろうにも投稿することにしました。楽しんで読んでいただけると幸いです。
僕 ー レイナは、炎の勇者、エンバー=フォルステクの話を会議室で聞いていた。現在までに分かったことは、僕と林健一の転生により世界が混沌に陥ったことだ。
エンバーは話を続ける。
「このことは急遽対策するべき事態となり、三大勇者の私らが行動する必要性が出てきた。それで、三大勇者の秘密会議を開いて、光の勇者:ライト=エーレの提案でヴァリー帝国内に革命を起こすことにしたんだ」
勇者の癖に悪役みたいなことしてない?ちょっと思うところはあったけど、無視して聞き続けることにした。
「彼の計画はこうだった:まず、急に国を危険に晒す皇帝に不満を抱いている貴族たちをライトが率いて革命を指示する。今は、皇帝の最大兵力である騎士団が魔王軍派閥レイジとの戦闘で不在。これは革命を起こすのに絶好のチャンスなんだ」
「ちょっと待って、それ勇者としてやって良いことなの?!」
いい加減ツッコミたくなった。勇者って秘密裏に革命を進める人だったかな?そうじゃないよね?
これを聞いたエンバーは、笑いながら、
「あはは!確かにそう思うかもしれんな。だが世界を危険に晒す国は止めなければならない。革命を起こすことになってもな」
「え、まあ、そうだけど」
勇者がやる事じゃなくない?だけどエンバーの顔を見ると、全く後ろめたさを感じていなさそうだった。むしろ、自信に満ち溢れていた。そして彼女は続ける。
「次に、私が膨大な魔力量が消えた場所に向かい、その持ち主が善人か敵なのかを調べる。魔王軍と三大勇者に接点は無いが、お互い戦うことは避けてきた。そのような考え方の持ち主であれば、三大勇者の介入は必要ない ー というか介入するべきではない。こんな話だった」
「なるほどね。じゃあ実際、今後はどんなふうに計画を進めてくの?」
彼女らの方針を知りたい。今後いろんな国との国交樹立において、考慮しとくべき点とかあるかもだし。
「うむ、そうだな・・・まあ基本の方針としては、ヴァリー帝国でライトが革命を成功させて、魔王軍との戦闘は回避できた、と主張するつもりだ。もとより私ら三大勇者はできる限り世界の平和を保ちたいと思っている。だから、魔王軍との戦争は避けたいし、無駄な争い自体もなくしたい。下手に魔王軍を刺激して多くの人が命を落とすなんて論外だ」
その為にエンバーは頑張ってきたんだろうね。なんとなくそれが伝わってくる。そしてきっと、他の三大勇者も同じなのだろう。第一に、林健一を殺せたのにそれをしないということには魔物であれ、なんであれ、無駄な殺しはしたくないというエンバーの考え方が現れている。仲良くしたいものだね。
僕はエンバーをみて言う。
「無駄に人を殺したくないというのは僕も同じ。そもそも他国と平和に付き合っていくのが目標だしね。そっちの方が楽しいし ー」
僕は止まった。何が“楽しい”だなんて元の世界では考えたこともなかった。世界が嫌いだった。でもこの世界に来て、楽しいことについて考えれるようになった。言葉では表現しづらい、あたたかさと悲しさが混ざったような何かを感じた。元の世界でも楽しさはあったのだろうか。
「レイナ?」
固まった僕にエンバーが不思議そうに声をかけてきた。
「あ、ごめんごめん。何でもないよ。とにかく、今大事なのはサンダール王国との国交樹立。手伝ってくれる?」
「ああ、もちろんだ。そっちの都合が合うならすぐにでも王に伝言を届けるぞ?」
はっや。でも予定は合いそうだし、エンバーにサンダール王国の王に伝言を伝えてもらって、国交を結んでもらおう。
ただ、心配なことが一つだけある。サンダール王国について話すとエンバーの顔が少し曇る。なにかありそうなんだよね。
「ねえ、エンバー。何かサンダール王国に問題でもあるの?」
エンバーは驚き、すぐに
「そんなわけないだろう、あはは!」
と答える。でも無理やり笑っているような感じだ。
「僕たちができることは少ないかもだけど、それでもやれることがあるなら喜んでするよ。革新的な農業法によって余るほどの食料があるし、技術の開発によって紙とかの高級品もあるし、結構いろんなものが僕らの国に備わってるからね」
ヴァルトの空間魔法で面積がなくても簡単に農業ができてしまう。もちろん、空間を作れる個数や大きさには限界はあるんらしいんだけど、それでも現在の人口には十分足りる量。しかも今は林健一の無限の魔力を使って、ヴァルトの空間を林健一の空間と置き換えていく予定。これが終われば、ヴァルトは空間を保持するための魔力を戦闘に回せるようになるし、林健一が無限に空間を作れるので、実質食料自給率を無限にできる。
あと技術面でも、雑学をそれなりに持っている僕なら結構楽に紙とかが作れた。中世においては高級品である。
「食料が余るほどあるのか?!では、それをサンダール王国に送ってくれないか?頼む!」
僕の言葉を聞いて、エンバーが席から急に立ち上がり、僕のほうに顔を近づけてきた。
やっぱり、なんか問題があるんだ。でも食料が必要だと言うことは・・・
「良いけど、サンダール王国って食料不足なの?」
「ああ、私の祖国は極度の飢餓状態なんだ。サンダール王国の食料は、もとよりヴァリー帝国との貿易に依存していた。しかし急にヴァリー帝国はサンダール王国への品々の輸出を止めた!これによる食糧不足で今サンダール王国には飢え死にしている人々が多くいる!頼む、食料をサンダール王国に送ってくれ!」
エンバーの勢いに少し驚かされたけど、確かに、食糧不足は大問題。食料援助はすぐにでもしたいところ。友好国とみなされやすくもなるし、一石二鳥だね。
「分かった、すぐに食料を届ける準備をするよ。そのまま国王にも挨拶をしに行こうかと思うんだけど、どうかな?」
気付いたら、よほど嬉しかったのか、エンバーは泣いていた。聞き取りづらかったけど「ありがとう」と言っていたことだけは分かった。
こんなにも他人のことを思う人がいること自体に僕は驚いていた。初めて、「素敵」と言える人に出会った気がした。この世界が素晴らしいのか、僕が元の世界を正しく見れていなかったのか、それは分からない。でも、このエンバーと言う人は本当に良い人だと思う。
エンバーが泣き止むまでの間に、僕はサボり国王の林健一への状況報告とサンダール王国への食料の輸送準備を整えることにした。