炎の勇者、エンバー=フォルステク
Pixivで書いていた小説をなろうにも投稿することにしました。楽しんで読んでいただけると幸いです。
「インフェルノ!」
いきなり始まった勇者との戦闘である。彼女は大規模な炎の魔法を俺に撃ってくる。上級スキル「魔力制御」で無効化する。
だがその間に距離を詰められ、エンバーは飛び上がりからの、剣での連続攻撃をしてくる。俺はそれを上級スキル「高速移動」で加速させた動きでかわすが、全てギリギリである。
コイツの動き早すぎるだろ!まだまだ本気出してない感じだし!この状態にはレイナも少し驚いているようだった。
俺はエンバーの攻撃の隙をみて、一時距離をとる。どんどん後ろに下がりながらエンバーの攻撃を避けてきたので、フォーガッテン達の位置からは離れてしまっていた ー ってなんでレイナついてきてんだよ。付いてくるなら手伝えよ!不死個体並の魔力は持ってるんだろうが!
レイナの方を向く。
「おいレイナ、いい加減手伝ってくれないか?そういえばだがお前デスを使わずにもある程度は戦えるだろ?」
彼女は「そうだね」とだけ呟く。何かを考えているようだが、表情が読めない。
その様子を見たエンバーは笑う。
「怖気付いたか。まあ良い、どうせコイツを始末したら次はお前、そしてこの地域に戦力を作ろうとしている者全員だ」
そして再び一気に俺の方に切り掛かってくる ー おそらく上級スキル「高速切断」を使っているのだろう。突き出てきた剣の一撃一撃を避けたり、剣で受けたりしながら隙を探る。一応、俺にはストリームに魔法で作ってもらった剣がある。つまりこの剣での攻撃は魔法攻撃 ー 相手が「ガード」スキルを使っていた場合、それを無効化できる。これで相手の隙をつければいいんだが・・・・・
エンバーの剣筋にここまでの物より遅いものが見えた ー 疲れてきたか、よし!俺は相手の武器を弾き飛ばそうと剣を振る。
「かかったな」
まるで未来が見えていたかのように、今までよりさらに速い斬り上げで、逆に俺の剣が弾き飛ばされた。
フェイントかよ!
俺の攻撃手段は魔法以外無くなった。ここまでも所々で魔法を使ってきたんだが、どうにも低い魔力の攻撃が通用するような相手ではなかった。俺の魔力量は無限にあるが、魔法に魔力をこめるには集中力が必要だ。そして今の俺にそんな余裕はない。
マジでレイナは何してんだ!俺死ぬぞ?と思った時、声が聞こえた。
「ゲームでよくある魔法、試してみれば?」
間違いなくレイナの声である。はあ?魔法には想像力が必要だ。ゲームでの魔法なんて・・・・・ いや、想像は余裕だよな?
「魔法に必要なのは想像力だけど、それは僕たちには既にあるものだよね」
レイナは続けて言う。
そう・・・・・だったのか?俺はてっきり、魔法の質量とか正確に考えないといけないのかと・・・・・ ってファイヤーってそこまで想像する必要がなかったよな?ただ手に火が乗っているイメージでやっていた・・・・・はずだ。
試しにエンバーが斬りかかってくるのと同時に「防御魔法」を使ってみた。簡単にいうと魔法で半透明な壁を作ってみた。
剣の弾かれる音と共にエンバーは一歩下がる。
「何!?急にただの火を撃ってくる魔法から複雑なものになった?!」
使えるのかよ!色々とレイナに聞きたいことはあるが、まずは勝つのが先だ。これでエンバーはそこまで傷つけずに無力化できそうだ ー あとはフォーガッテンらが向こうでやりすぎてないと良いが。
今度は俺がエンバーに攻撃をする。
「ダークライトニング!」
黒色の雷をはなつ。
もちろんエンバーはこれを炎の魔法で粉砕する。
「攻撃が変わって少しは驚いたが、私を舐めるな。今までも強力な魔法を操る者と対峙してきたからな!喰らうが良い、“インフェルノドラゴン”!」
龍の形をした炎が飛んできた ー これはすごい魔法だな。
あたり一面が焼け、そのままり炎の龍は俺に突っ込んでくる。更に同時に、いつの間にか空にできていた巨大な魔法陣から焼却魔法が降ってきた。だが不意打ちではない限り「魔力制御」を持っている相手に魔法は通用しない。そしてエンバーもそれを理解しているはずだ。彼女が最初剣を抜いたとき、炎魔法が付与されていたが、俺が「魔力制御」を使ってからは使用魔力削減のためか付与しなくなったからな。
となれば、だ。魔法を撃って、それを受けた俺の視界が閉ざされている間に距離を詰め、決定的な一撃を与えるのが当然だろう。
つまりエンバーは俺の今思いついた魔法が確定で当たる範囲に入る!
「これで終わりだ!」
ここまでより、更に速い速度での、そして高威力での斬撃が背後からきた。さっきまでであれば絶望だったが、今の俺には様々な魔法がある。
「ライトバインド!」
光の輪でエンバーの動きを封じた。
◆◇◆
僕 ー レイナは林健一の戦いを見ていた。フォーガッテンらはたぶん余裕で勇者の連れを倒せるから。
流石、炎の勇者だと思った。明らかに斬撃のスピードが速い。僕の上級スキル「達人の目」で見切れるけれど、動きが追いつくか分からない。その点、林健一の「高速移動」は便利なスキルだね。
そして、このまま続いたら彼が負けそうだったので、基本魔法以外の魔法の使い方を教えた。僕には、林健一が「ファイヤー」の魔法を使った時から考えていたことがあった。
なぜ彼は「ファイヤー」などの基本魔法しか使えないのか。魔法は、フォーガッテンらが説明してくれたことによれば、想像力によって魔力に性質を持たせたものらしい。それから考えると、魔法には想像力が必要で、林健一は的確な「ファイヤー」の想像ができたからその魔法を使えた、そして難しい性質を持たせる他の魔法には想像力が足りない、ということになる。
その想像力とやらは、その魔法の見た目、質量、感触とかをイメージする力らしいけど、僕には林健一がそんなことをしていたようには見えなかった。第一、火の重さって何?という疑問が湧く。
そこで、僕はこんな仮説を立てた:転生者はゲームなどの影響で、様々な魔法を使うために必要な想像力を持っているのではないか、と。確かに、手の上に乗っている火や水の塊をイメージするのはそこまで難しくない。重さとか見た目とかも、「なんとなく」で想像がつく。さらにバリア的なものを作るのも、思いつかない訳じゃない。
一方異世界人は、中世ヨーロッパのような世界で過ごしている。一般的に、物理法則を無視することは起きない ー つまり、まず火の塊が手のひらに乗るいう想像ができない。なので、魔法を使う時は元の物(火とか水とか)の性質を学習し、魔力にその性質を持たせる。物の性質を理解することで多少は不可能の想像もできるようになる。
まとめると、魔力さえあれば魔法を使うのは全く難しくない。だけどこの異世界では、魔法に肝心な想像力が育ちにくい ー 当然のことではあるけどね。だから魔法には正確な想像が必要だ、とか言われているけど、実際には曖昧な想像でも魔法は成立する。不可能なことを起こすのが魔法。つまり「蒸発しない水」も魔法で作れる(魔法で作ってるから水なのか分からないけど)。
ということで、林健一はその一般的な勘違いをしていた。本当は魔法に複雑な想像はいらない。そしてゲームでの魔法とかをよく見ている僕たち転生者は圧倒的に有利なのだ。
僕は戦いの終わった林健一の方を見る。
「よくやったね。勇者がまさかこんなに強いとは思わなかったよ」
「そう思ったなら手伝ってくれよ!お前魔力は不死個体並みにあるんだよな?」
「く、おのれ!」
動けなくなった炎の勇者:エンバー=フォルステクの姿があった。焼け野原となった地面に座り込んでいる。
「まあ、僕はあまり手の内を見せたくないんだよね」
「それだけかよ?!」
不満そうな林健一。いつもその気持ちを抱えてるのは僕だから、たまには僕の気分を味わうと良い。
本当は、戦いたくなかった理由は他にもある。不死個体並の魔力とは、相当なものである。そしてまだ僕は警戒されるべきじゃない ー そっちの方が色々と便利だからね。いつかは戦わないといけない日が来るかもだけど、その時まではできるだけ避けたい ー 今までのデス乱用はノーカンで!
最近やはり性格が少し変わった気がする。